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アメリカン・コミックスの単行本を紹介していくブログ。不定期更新。
2000/01/01(土)00:00
■更新履歴
・2023/9/19:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第23号、『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』のエントリを執筆。……あれ、『マーベル・ゾンビーズ』のエントリ以上に手間がかかってね?(知らぬ)

・2023/8/26:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第22号、『マーベル・ゾンビーズ』のエントリを執筆。長い。疲れた。

・2023/8/16:「マーベル グラフィックノベル・コレクション:」第21号『アルティメッツ:ホームランド・セキュリティ』のエントリを執筆。とりあえず、特に語ることもないので、今まとめたい情報を取りまとめた。

・2023/7/6:3ヶ月ぶりだよ(仕事忙しかった)。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第20号『ブラックパンサー:フー・イズ・ブラックパンサー?』のエントリを執筆。

・2023/3/27:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第19号、『アベンジャーズ・フォーエバー Part 2』のエントリと見せかけて、キャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)の歴史を取りまとめただけのエントリを執筆(しれっと)。

・2023/3/22:久々に、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第18号『シークレット・ウォー』のエントリを執筆。脳味噌を使う仕事で忙しいのと、前号の翻訳がヒドかったせいで、かなりテンション落ちてて、まあ、1月半ぶりの更新になった。

・2023/2/3:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第17号『ニューX-MEN:E・イズ・フォー・エクスティンクション』のエントリを執筆。書いてる途中、何度も「邦訳版は翻訳がヒドい」と書いては消し、書いては消していた(節度)。

・2023/1/17:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第16号『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』を更新。なんか、このブログの文章の定型をすっかり忘れていて、少々苦労した。

・2022/12/13:4日ぶりの更新。「補足:『マーベルズ』刊行当時のコミック界」を執筆。とても主観の強い文章になったが反省はしない。

・2022/12/9:2ヶ月ぶりの更新(更新しなかった理由:あんまり気分が乗らなかった)。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第15号、『マーベルズ』のエントリを執筆。本当は、「1990年代のコミック界と、そこに現われた『マーベルズ』という傑作」についての話をしようと思ったが、『マーベルズ』の単行本と、その後継作の話をしてたら大分長くなったので次回に。

・2022/10/18:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第14号、『キャプテン・アメリカ:ニューディール』のエントリを執筆。特に書くことがないかと思ってたが、いざ書き始めてみると、それなりの長さになった(適当)。

・2022/10/3:「補足:「クレイヴンズ・ラストハント」当時の『スパイダーマン』」を執筆。1980年代後半の『スパイダーマン』関連誌(『アメイジング』#252~300あたり)の流れにおいて重要な三本柱のうち2つ「ブラック・コスチューム」と「メリージェーンとの結婚」についてまとめられて満足した(残る1つは、「ホブゴブリン」だが、まあ、今後触れる機会はないだろう)。

・2022/9/27:1ヶ月以上間が開いたが「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第13号、『アメイジング・スパイダーマン:クレイヴンズ・ラストハント』のエントリを執筆。いつも以上に趣味性の強い内容になったが、まあ、このブログは本来そういうものだ。

・2022/8/16:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第12号、『アベンジャーズ・フォーエバー Part 1』のエントリを執筆。過去のコミックからのマニアックな引用を得意とするカート・ビュシーク作品なので、登場人物の状況について、とりあえず説明すべきことを説明してみた(長くなった)。

・2022/8/3:「補足:ウェイド&ウェイリンゴ期の後の『ファンタスティック・フォー』の流れ」と題して、J・マイケル・ストラジンスキー期の『ファンタスティック・フォー』誌と、他誌との関連についてエントリを書いた。

・2022/7/29:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第11号、『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』のエントリを執筆。「Mike Wieringo」のカナ表記は、ヴィレッジブックス、小学館集英社プロダクションだと、「マイク・ウィーリンゴ」だが、本書の表記に準じて「マイク・ウィアリンゴ」と表記する(最初に投稿した時はうっかり「ウィーリンゴ」にしてしまっていたので修正した)。

・2022/7/12:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第10号『アストニッシングX-MEN:ギフテッド』のエントリを執筆。

・2022/7/6:「補足:『ソー:リボーン』に至るまで」のエントリを執筆。

・2022/6/21:間が開いてしまったが「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第9号『ウルヴァリン』のエントリを執筆。

・2022/5/26:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第8号、『ソー:リボーン』のエントリを執筆。J・マイケル・ストラジンスキー期の『ソー』は案外短かったので、そんなに書くことはなかった(ストラジンスキー期までの『ソー』誌については「補足」で書く予定)。

・2022/5/19:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第7号、『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』のエントリを執筆。

・2022/5/9:「補足:リック・リメンダー期の『ヴェノム(vol.2)』」を執筆。本当は、『ヴェノム(vol.2)』を通しての流れを志向していたが、気力が続かなかったので、リック・リメンダー期のみに限定して執筆。

・2022/4/27:「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第6号、『ドクター・ストレンジ:ウェイ・オブ・ウィアード』のエントリを執筆。

・そういえば、こっちで通知し忘れていたが、noteを始めた。まあ、このブログの「マーベル グラフィックノベル・コレクション」の記事を転載しているだけだが。

・2022/4/9:「補足:『アルティメッツ』の物語の流れ」を執筆。……すまん、俺は今もあの時期のジェフ・ローブの作品に対して思うところがあって、一部辛辣なことを書いた。


■このブログについて

 このブログは筆者(TPBman)が読んだアメリカン・コミックスの単行本を紹介しつつ、それらの単行本についての情報を、大雑把に記載していくことを目指していくページになります。

 各エントリは、「この単行本には何号から何号までのコミックスが収録されているのか」「内容はどのようなものか」「この話はどの単行本に続くのか」といったあたりの有用な情報を多少なりとも盛り込むよう心がけております。


■このブログの「日付け」について

 なお、このブログの昔のエントリ(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」について書く以前のもの)は、「日付け」欄を利用して各TPBをアルファベット順に整理をしているため、それらの日付けは実際にそのエントリを更新した日付けとは一致しません。

 例えば「A」で始まるTPBは「1901年」で始まる日付けを、「B」で始まるTPBは「1902年」で始まる日付けを割り振る……といった具合にしております(※数字で始まるTPBは「1927年」)。

 なので、このブログは他のブログのように巻頭の記事から順番に最新の記事が掲載されているわけではありません。

 一応、左ブロックの「月別エントリ」から、任意のアルファベットで始まる単行本を検索することもできます。
  
  
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2023/09/19(火)12:00
■Doctor Strange: the Oath
■Writer: Brian K. Vaughan
■Penciler: Marcos Martin
■翻訳: 田中敬邦
■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN: B0BMW3KS31



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第23号は、刊行当時(2006年)、『Y:ザ・ラストマン』や『エクス・マキナ』などの作品で、高い人気を誇っていたブライアン・K・ヴォーンをライターに迎えたリミテッド・シリーズ『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』を初邦訳。

 収録作品は『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』#1-5(12/2006-4/2007)。


 さて、本作が刊行された2006年末頃のドクター・ストレンジは、長らくオンゴーイング・シリーズも持てず(1988~1996年にかけて刊行されていた『ドクター・ストレンジ:ソーサラー・スプリーム』全90号が終了して10年)、時折リミテッド・シリーズやワンショットが刊行されたり、かつてストレンジが所属していたチーム、ディフェンダーズの流れを汲むチーム誌に出演したり、大型のクロスオーバーに「味方側のお役立ちサポートキャラクター」として登場したりといった、地味目の立場に甘んじていた(まあ、完全に出番がなくなるよりはマシではあるが)。

 で、本作『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』が高い評価を受けたことで(今では本作は『ドクター・ストレンジ』のオールタイム・ベストの筆頭に挙げられる評価を受けている)、ようやく注目を浴びる訳だが、それで即座に新オンゴーイング・シリーズが刊行された訳ではなく、そこからさらに8年を経た2015年に、ようやくジェイソン・アーロンによる新オンゴーイング・シリーズ『ドクター・ストレンジ(vol.4)』が創刊され、以降、コンスタントにオンゴーイング・シリーズが刊行される格のキャラクターとなる。

 本エントリでは、その不遇の約20年(1996~2015年)を、簡単に紹介してみたい(と、思っていたが、書いてみたら余裕で2万字を越えていた)。


 まずはオンゴーイング・シリーズ『ドクター・ストレンジ:ソーサラー・スプリーム』が休刊した1996年から2004年頃までの約8年間。

 この時期のストレンジは、「良い感じのサポートキャラクター」というポジションにすら就けず、マーベル編集部が散発的にワンショットやリミテッド・シリーズを刊行して、「ドクター・ストレンジは売れるか」どうかを測り、その売り上げを見て「まあ、売れなそうだから今は見送ろう」という結論に至り(多分)、またしばらく間を開けてから「今度はどうだ」と、別のワンショットやリミテッド・シリーズを試す……という、露出も散発的な時期だった(後は、『ゴーストライダー』などのオカルト系のコミックや、『スパイダーマン』のオカルト要素の強い回にゲスト出演したりもしていたが、まあ、次に繋がるような画期的な活躍はしなかった)。

 それらワンショット、リミテッド・シリーズの嚆矢として、1997年に刊行されたのが、ファンタジー・コミックスの大家、P・クレイグ・ラッセルがアートを担当したワンショット、『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』#1(10/1997)である。

 この作品は、元々ラッセルがマーヴ・ウルフマン(ライター)と組んで1976年に送り出した『ドクター・ストレンジ』アニュアル#1(12/1976)掲載の話を、ラッセル自身がアートを1から描き直してリメイクしたもので(妙に長いタイトルに繋がる導入部も新規に追加)、ラッセルの熟達したアートが楽しめる1冊となっていた。

 内容は、師であるエンシェント・ワンから、従者のウォンが危険にあると告げられたストレンジが黄金の都市ディッコポリス(無論、ストレンジの生みの親であるスティーブ・ディッコにちなむ)に旅立ち、邪悪な魔女エレクトラと対決する……的な話。

 まあ、本作は前述したような「新オンゴーイング・シリーズに繋げるための様子見のワンショット」というよりは、ラッセルが長年マーベルに出していたリメイク企画が、このタイミングで実現した、特にしがらみのない作品ではあるが、筆者個人がラッセルが好きなので、臆面もなく紹介する。



 同作はワンショットながら、Kindle電子書籍版が単巻発売もされていて、ラッセル人気の高さがうかがえる。




 なお、ラッセルのアートに興味のある方は、上の単行本『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』をお勧めする(タイトル自体は変わらないので、単巻発売版と間違えぬ様)。

 こちらは表題作に加えて、表題作のオリジナル版である『ドクター・ストレンジ』アニュアル#1も収録されており、新旧のアートやコマ割りを見比べられるようになっている。

 さらには、

・過去にラッセルがアートを担当したドクター・ストレンジが主役の短編(『マーベル・プレミア』#7(3/1973)、『マーベル・ファンファーレ』#5(11/1982))

・ラッセルがインカーとして参加したドクター・ストレンジが主役の短編(『ドクター・ストレンジ(vol.2)』#34(4/1979)、『ドクター・ストレンジ(vol.2)』#46(4/1981)後半部、『マーベル・ファンファーレ』#6(12/1982)前半部)

・ラッセルがアートを担当したスカーレット・ウィッチ&スパイダーマンが主役のオカルト短編(『マーベル・ファンファーレ』#6(1/1983))

・ラッセルがアートを担当した怪奇短編(『チャンバー・オブ・チルズ』#1(11/1972)巻頭、『チャンバー・オブ・チルズ』#2(1/1973)中頃、『ジャーニー・イントゥ・ミステリー(vol.2)』#4(4/1973)中頃)

 ……と、P・クレイグ・ラッセルがアートやインクを担当した『ドクター・ストレンジ』他のオカルト系のコミックを網羅した上に、『ドクター・ストレンジ:ホワット・イズ・イット・ザット・ディスターブズ・ユー・スティーブン?』の刊行時にマーベルの自社広告に掲載されたラッセルのインタビューや、ラッセルがアートを担当したストレンジ関連のコミックの表紙・ピンナップ、原画などを収録した、充実した内容となっている。


 後は、1998年に、当時の人気オンゴーイング・シリーズだったカート・ビュシークの『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン』の増刊号として、ワンショット『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン:ストレンジ・エンカウンターズ』#1(6/1998)も刊行されている。こちらは、デビュー直後のスパイダーマンとドクター・ストレンジの初遭遇を描いた作品。



 上は単話版の電子書籍。


 さてその後1998年、マーベル・コミックス社は、インディーズ・コミック出版社の雄、ジョー・カザーダ&ジミー・パルミオッティを招いて新規レーベル「マーベル・ナイツ」を立ち上げ、『デアデビル』、『ブラックパンサー』、『パニッシャー』と言った「マーベルの看板作品からやや外れるものの、根強い人気とポテンシャルを持ったヒーロー」のリバンプを担当させる、ということをし、結果、コンスタントなヒット作を出していく(この成功を受け、カザーダは2000年からマーベルの総編集長に就任する)。

 で、この「マーベル・ナイツ」レーベルで、「マーベルの看板作品からやや外れるものの、根強い人気とポテンシャル(多分)を持ったヒーロー」の一人として、ドクター・ストレンジにも白羽の矢が当たり、かくて1999年にリミテッド・シリーズ『ドクター・ストレンジ(vol.3)』全4号(2-5/1999)が刊行される。

 同作は、他者に魔力を与える力を持ったジョナサン・ホワイト率いるカルト集団の野望に、ドクター・ストレンジが立ち向かうという、現代的なストーリーで、トニー・ハリス(ペンシル)&レイ・スナイダー(インク)のアートに、ダン・ジョリー&トニー・ハリス&レイ・スナイダーの3人が共同で脚本を担当するというスタイルで描かれた。

 トニー・ハリスのアートは、ノワールな雰囲気で『ドクター・ストレンジ』の世界を再解釈し(当時のオカルト系コミックの最先端であるマイク・ミニョーラの影響も見える)、ストレンジのダンディで落ち着いた雰囲気を良く描いていたのだが……まあ、ぶっちゃけ地味で、その後オンゴーイング・シリーズを獲得できるほどのヒットとはならなかった。



 このリミテッド・シリーズは、2016年に刊行された『ドクター・ストレンジ:ザ・フライト・オブ・ボーンズ』にて初収録された。刊行から17年経ってようやく単行本化されたというあたりに、本作の人気の微妙さがうかがえる(ミもフタもない)。

 この単行本には、リミテッド・シリーズ全4号に加えて、2010年に刊行されたモノクロ・コミックのワンショット『ミスティック・ハンズ・オブ・ドクター・ストレンジ』#1(3/2010)に、短編集『マーベル:シャドウ&ライト』#1(2/1997)と、『シャドウ&ライト』#2(4/1998)に掲載されたドクター・ストレンジ主役のモノクロの短編、それにアンソロジー・コミック『マーベル・ダブルショット』#4(4/2003)掲載のストレンジ主役の短編と、前後の時期の単行本にまとまりづらい細かな短編を、ここぞとばかりに入れ込んでいる。


 で、マーベル・ナイツからはその後2004年に、人気ライターのJ・マイケル・ストラジンスキーを招いてドクター・ストレンジのオリジンを再解釈したリミテッド・シリーズ『ストレンジ(vol.1)』全6号(11-12/2004, 2, 4, 6-7/2005)も刊行された。

 が、同作は(例によって)それほど人気を得られず、せっかく再解釈したオリジンも、以降のコミック上で踏襲されることはなかった。現在では同作の話は平行世界「アース-41101」を舞台とした、別のスティーブン・ストレンジの物語、ということになっている。



 こちらが単行本『ストレンジ:ビギニングズ&エンディングス』。リミテッド・シリーズ全6話を収録。


 これら『ドクター・ストレンジ』が主役のワンショット&リミテッド・シリーズが散発的に刊行される一方で、2001年には、かつてドクター・ストレンジが所属していたヒーローチーム「ディフェンダーズ」の新オンゴーイング・シリーズ『ディフェンダーズ(vol.2)』#1(3/2001)が創刊されている。同誌にはドクター・ストレンジもレギュラーで出演していたが、クセの強い絵を描くエリック・ラーセン(カート・ビュシークとの共著でライターも担当)を起用したのが裏目に出たか、わずか12号で打ち切られた。

 なお、同シリーズは、単行本化も、単話での電子書籍化もされていない(言っては悪いが、それくらい当時の人気は低く、後年になってもその評価は覆っていない)。


 あと、『ディフェンダーズ(vol.2)』が打ち切られた2ヶ月後には、リミテッド・シリーズ『ジ・オーダー』全6号(4-9/2002)が刊行されている。こちらは『ディフェンダーズ(vol.2)』の共著者だったカート・ビュシークが単独で脚本を担当し、アートはカルロス・パチェコが担当(要は『アベンジャーズ・フォーエバー』コンビ)。

 ディフェンダーズの仇敵であるヨンドロスの放った呪いにより、ディフェンダーズの創設メンバー(ドクター・ストレンジ、ハルク、サブマリナー、シルバーサーファー)が狂奔し、絶対的な秩序を追求する新チーム「ジ・オーダー」を設立。これに対してディフェンダーズのメンバーらが対抗していくという、ヒネりの入った話。



 こちらも単行本化はされていないが、幸い単話版で電子書籍化されているので、現在でも容易に読むことはできる。


 更に2005年には、カルト的な人気を誇るキース・ギフェン&J・M・デマティスのライターコンビと、「味のある表情を描く」ことに定評のあるケヴィン・マグワイアの3人(かつてDCコミックスの『ジャスティス・リーグ・インターナショナル』誌で熱狂的な人気を博した作家陣)を招いたリミテッド・シリーズ『ディフェンダーズ(vol.3)』全5号(9/2005-1/2006)が刊行されている。

 こちらは、ドクター・ストレンジの仇敵ドルマムゥと、その双子の妹ウマー・ジ・アンホーリーが同盟を組むという未曽有の事態が勃発したのを受け、ストレンジがディフェンダーズの再結成を決意。創設メンバーの元を訪れるが、元々チームとしてまとまっていたのが不思議なくらいの唯我独尊なメンバーが、歳をとって一層性格をこじらせていたがために、足並みが全くそろわず、気づけばドルマムゥによって地球は支配されていた……的な、オフビートなコメディ。



 こちらが本作の単行本『ディフェンダーズ:インデフェンシブル』。キース・ギフェンは非常に読者を選ぶカルト作家だが、まあ、前述の2作よりは読者人気は高いため、普通に単行本化&電子書籍化がなされている(普通って素晴らしい)。収録作品はリミテッド・シリーズ全5号。ケヴィン・マグワイアの顔芸と、ギフェンのコマ割りの妙(※)、デマティスの軽妙なセリフ回しが楽しめる快作であるので、ドクター・ストレンジとは関係なくお勧めする1冊(いや、筆者がギフェン&デマティスが大好き過ぎるだけだが)。

※キース・ギフェンは、アーティスト出身のライターであるため、通常のライターのような脚本形式ではなく、既定のページ数にコマを割り、大まかなキャラクターを描いていくスタイル(日本のマンガで言うところの「ネーム」)でライティングを行う。共著者のJ・M・デマティスは、「このページではこんな内容の会話が繰り広げられる」的なギフェンの説明を受けて、それに即したセリフを考えるという、特異な役割分担となっている。

 以上、1996~2000年代前半までのドクター・ストレンジの「不遇期」の概要説明終了。


 さてその後、2000年代の中頃に入ると、ドクター・ストレンジは徐々に「良い感じのサポートキャラ」としてのポジションを確立させていくのだが、そのイメージの確立に貢献したのは、2005年に創刊された『ニューアベンジャーズ』誌のライター、ブライアン・マイケル・ベンディスであった。

 ベンディスは、『ニューアベンジャーズ』誌の作中で、ストレンジをサポートキャラとして度々登場させる一方、彼が手掛けた同時期のマーベルの大型クロスオーバーの中でもドクター・ストレンジをサポートキャラとして描いていった。この結果、ストレンジは「良い感じのサポートキャラ」であると同時に、ベンディスの「持ちキャラクター」として、続く10年間ほど活躍していくこととなる。

 ──その、人気ライターの持ちキャラになるのは、出番も増えてめでたいことではあるが、逆にベンディスが『ニューアベンジャーズ』のライターを降りるまでは、他のライターがストレンジを使いづらくなり、単独作品の企画なんかも通りづらくなるため、ストレンジというキャラクターにとっては痛しカユしな時期ではあった(しかもベンディスは、かなり長期間『アベンジャーズ』関連誌のライターを続ける)。


 でー、まずベンディスは、彼がメインライターを務めた2005年の大型クロスオーバーイベント『ハウス・オブ・M』#1(6/2005)の冒頭で、プロフェッサーX、マグニートー、X-MEN、ニューアベンジャーズらによる「『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で狂奔したスカーレット・ウィッチをこの先どうするか会議」にドクター・ストレンジを登場させ、「オカルトの専門家としての見地から、スカーレット・ウィッチをどうすべきか」について意見を述べさせた(X-MENのホワイトクイーンと、1ページに渡りダラリとした「ベンディス会話」をやり取りした)。

 更に『ハウス・オブ・M』の後半、ストレンジはニューアベンジャーズ&X-MENと共に最終決戦に参加し(背景で何かしら魔法を打ってる程度の活躍だが)、クライマックスではスカーレット・ウィッチの記憶に触れて事件の真相を読者に明かすものの、事件の決着には関与できず、全てが終わった後にニューアベンジャーズの前に現われて「こんな風に世界は大変なことになったのだ」と説明するという、絶妙な「良い感じのサポートキャラ」ぶりを発揮した。




 また、同時期の『ニューアベンジャーズ』#7-10(7-10/2005)で展開された「セントリー」ストーリーラインにも、ドクター・ストレンジはゲスト出演しており、記憶を失った超超人セントリーに対応すべくニューアベンジャーズ&X-MENが集結したシーンで、しれっとコマの端の「メインではないが、そこそこ視認しやすい位置」に露出。セントリーの精神から生まれた怪物ボイドとニューアベンジャーズ&X-MEN連合の戦いでも、最後まで戦い続ける(が、アップになったりセリフを発したりはせず)という役割を演じた。ただし、「セントリーの記憶に接触し、事件の真相を知る」という『ハウス・オブ・M』におけるストレンジの役回りは、本作ではX-MENのテレパス、ホワイトクイーンに取られた。

 またこのセントリー編では、アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、サブマリナー、ブラックボルト、プロフェッサーX、そしてドクター・ストレンジという、マーベル・ユニバース屈指の頭脳派による秘密組織「イルミナティ」が初登場。「ニューアベンジャーズの行く末を訳知り顔で後方から見守るサポートキャラ」としてのストレンジの立場をより強固にした。



 こちらは単行本『ニューアベンジャーズ:セントリー』。『ニューアベンジャーズ』#7-10を収録(かつてはヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので、興味のある方は古書店を探すのもいいだろう)。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」33号、『ニューアベンジャーズ:ブレイクダウン』の続きでもある(なお「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では『ブレイクダウン』以降の刊行予定はない)。


 で、翌2006年の大型イベント『シビル・ウォー』(ライターはマーク・ミラー)でも、ドクター・ストレンジは「サポートキャラ」としての立場を維持する。

 同イベントのプロローグとなるワンショット『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』#1(5/2006)では、ストレンジは「過去のイルミナティの会議ではアイアンマンに協力的なスタンスを取っていたが、超人登録法に関しては明白に反対の立場を執る」という、そこそこおいしい立場に就く。



 こちらは『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』の単話版電子書籍。「シビル・ウォー」のイベント全体をフォローする気があるなら、以前紹介した、このワンショットを収録した単行本『シビル・ウォー:ザ・ロード・トゥ・シビル・ウォー』の単行本を買うのもいいだろう(同署はヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので、古書店を探すのもいい)。


 他方、『シビル・ウォー』本編では、#1(7/2006)の冒頭で、いつもの様に「ヒーローらが今後の方策を話し合うため集結した際に、知恵者らしいセリフを二言三言述べる」役回りを務めるものの、超人登録法の施行後は姿を消し、その後の『シビル・ウォー』#6(12/2006)で、「ソーサラー・スプリームである彼は、シビル・ウォーを即時終結させられるだけの力を持っているが、それ故にどちらにも加担せず、中立の立場を採る」という彼の立場が説明され、格を落とさずに物語から身を引く。



 一応、『シビル・ウォー』電子書籍版単行本。


 ちなみに『シビル・ウォー』の最終号である#7(1/2007)と同月に刊行された『ニューアベンジャーズ』#26(1/2007)は、『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で死亡したホークアイが復活を遂げた経緯を描いた過去回想話だったが、作中でドクター・ストレンジは、スカーレット・ウィッチを探し求めるホークアイに助言を与えるという、実に彼らしい役回りでゲスト出演している。


 で、この『シビル・ウォー』イベントの末期のタイミングで、本書『ドクター・ストレンジ:ジ・オース』全5号(12/2006-4/2006)がスタートする。

 ちなみに本作『ジ・オース』は、特に時系列が定められていない話なのだが、冒頭でアイアンフィストやアラーニャと言ったクライム・ファイターがそこそこ自由に活動してるらしき描写から、『シビル・ウォー』で超人登録法が試行されるよりも前だと推測される。



 ちなみにkindleunlimitedでは、『ジ・オース』は無料で読める。さすがドクター・ストレンジのオールタイム・ベスト。


 一方、『シビル・ウォー』完結の翌月からは、ベンディスによるリミテッド・シリーズ『ニューアベンジャーズ:イルミナティ(vol.2)』全5号(2-3, 7, 9, /2007, 1/2008)がスタート。こちらでは『シビル・ウォー』以前から現代まで、イルミナティの面々が密かに地球防衛のために活動していたエピソードが描かれ、ストレンジもイルミナティの一員として主役格の活躍を見せた。



 こちらがその単行本。同作もヴィレッジブックスから邦訳版も出ていたので(略)。


 また、『ニューアベンジャーズ』#27-31(4-8/2007)で展開された「レボリューション」ストーリーライン以降、超人登録法に反対して流浪の身となったニューアベンジャーズの面々は、ドクター・ストレンジの拠点サンクタム・サンクトラムに居候し、移動にもドクター・ストレンジの空間転移魔法を利用するようになる。

 この「レボリューション」編は、ニューアベンジャーズの面々がストレンジの魔法で日本へテレポートし、忍者軍団ハンドを支配下に置いた女暗殺者エレクトラと戦う……という話で、物語のラストで殺害されたエレクトラが、実は異星人スクラルが化けていたことが判明。続く大型クロスオーバー『シークレット・インベージョン』(こちらもライターはベンディス)への伏線が貼られていく。



 こちらは単行本『ニューアベンジャーズ:レボリューション』。前述の『ニューアベンジャーズ』#26と、「レボリューション」編(#27-31)を収録(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 で、「レボリューション」編の最終話と同時期には、この年のマーベルの大型イベント『ワールド・ウォー・ハルク』(メインライターはグレッグ・パック)がスタートする。

 同作は、アイアンマン、ストレンジらの所属する秘密結社イルミナティの策謀により、外宇宙に追放されたハルクが、『ハルク』関連誌で展開された長編ストーリー「プラネット・ハルク」編を経て、仲間と共に地球に帰還。イルミナティに宣戦布告したハルクらに対し、『シビル・ウォー』を経て地球のヒーロー・コミュニティの筆頭となったアイアンマンや、ハルクの長年の仇敵サンダーボルト・ロス将軍らが総力を挙げて対抗する……という話。

 こちらの作中の冒頭で、ストレンジはアイアンマンから魔術を用いて再びハルクを地球外に追放するよう求められるも、「我々がこの状況を作り出したのだ、我々で解決しなければならない」としてこれを拒否。
 ブラックボルト、アイアンマン、ミスター・ファンタスティックらがハルクに倒される中、ストレンジは魔術でハルクの精神の奥底に居るブルース・バナーと接触し、彼との和解を試みる……が、怒れるハルクに対話を拒否された上に、両腕を砕かれる(『ワールド・ウォー・ハルク』#3(10/2007))。
 やむを得ず、ストレンジは妖魔ゾムの力をその身に宿し、ハルクと直接対決。当初は圧倒的な憤怒のパワーでハルクを圧倒するも、自身の暴力に飲まれて周囲の市民を巻き添えにしかけたことで理性を取り戻してしまい、その隙を突かれてハルクに打ち倒される(『ワールド・ウォー・ハルク』#4(11/2007))……と、言った具合に、そこそこ良い感じの「悪役」としての活躍を見せる──ストレンジはイルミナティの中では、最もハルクと近しい仲だったため(ディフェンダーズのメンバー同士だったし)、必然、本作ではこうした良い役回りを与えられたのだろう。



 こちらが『ワールド・ウォー・ハルク』単行本(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 この後、『ニューアベンジャーズ』#32-37(9/2007-2/2008)と『ニューアベンジャーズ』アニュアル#2(2/2008)で展開された「トラスト」ストーリーラインでも、引き続きドクター・ストレンジはニューアベンジャーズの一員として活躍している。

 で、この、「トラスト」の冒頭で、先のエピソードに登場した「スクラル・エレクトラの遺体」が、ニューアベンジャーズの初期からのメンバーであるスパイダーウーマン(実はアイアンマン側のスパイ)によって持ち去られるという事態が勃発。この結果、「仲間がスクラルかもしれない」「仲間がアイアンマンのスパイかもしれない」という疑念に囚われたニューアベンジャーズのメンバーは、ひとまず解散して、三々五々それぞれの日常に戻る。──なお、この時ストレンジはサンクトラム・サンクタムに帰還し、ナイト・ナースとベッドインしている(『ジ・オース』以降、恋愛関係となった模様)。

 やがて頭を冷やして再集結した一同は、当時の『マイティ・アベンジャーズ』誌の方で展開されていた、「宇宙から飛来した謎のウィルスの影響により、無数のニューヨーク市民がシンビオートに取り憑かれたヴェノムに!」事件と微妙にクロスオーバーして、マイティ・アベンジャーズと呉越同舟した後、当時ニューヨーク市の暗黒街で名を挙げていたフッド率いるヴィラン軍団と大規模な決戦を繰り広げる。

 この時、フッドに致命傷を負わされたストレンジは、『ワールド・ウォー・ハルク』で用いたゾムの暗黒の魔力を再び引き出すことで、ニューアベンジャーズを巻き込みつつも、ヴィラン軍団を無力化することに成功する。しかしながら、暗黒の魔術を御しきれると思っていた己の傲慢さが、仲間を傷つけたことを深く恥じたストレンジは、光の魔術を再度身に着けるために、チームを辞して次元の彼方へ消え去るのだった。



 例によって『ニューアベンジャーズ:トラスト』電子書籍版単行本(例によってヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 なお、「トラスト」と同時期に刊行された、『ニューアベンジャーズ:イルミナティ(vol.2)』#5(1/2008、シリーズ最終話、『シークレット・インベージョン』とタイイン)で、スパイダーウーマン経由で遺体を確保したアイアンマンは、イルミナティの面々を招集(今は敵対する立場になったストレンジもアストラル体ながら出席し、アイアンマンを驚かせる)。今後の方策を討議するのだがが……的な話が展開される。

 で、その後の『ニューアベンジャーズ』誌は、#38-47(4/2008-1/2009)の10ヶ月に渡り、ベンディスがメインライターを務める2008年度の大型イベント『シークレット・インベージョン』#1-8(6/2008-1/2009)とタイインした話を続ける。

 が、先の話で次元の彼方に消えたドクター・ストレンジは、『シークレット・インベージョン』本編および『ニューアベンジャーズ』の作中には一切登場しなかった(『ニューアベンジャーズ』#44(10/2008)に、スクラル人の作り出した「クローン・ドクター・ストレンジ」が登場した程度)。

 ていうか、『シークレット・インベージョン』は、「潜伏していたニック・フューリーが復帰して市井のヒーローらを糾合してスクラルへの抵抗軍を率いる」、「アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、イエロージャケットら科学系ヒーローが協力してスクラルへの対抗策を発見する」という2本の筋が物語の重要なポイントであるため、それらの筋を活かすためにも、サポートキャラとして万能過ぎるドクター・ストレンジを事前に外していたのだろう。



 こちらは『シークレット・インベージョン』本編の電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全8話を収録(ヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。






 こちらは『ニューアベンジャーズ』の『シークレット・インベージョン』タイイン期の単行本。タイイン期間が長かったため、2冊の単行本として刊行。Book 1は『ニューアベンジャーズ』#38-42、Book 2は#43-47を収録(いずれもヴィレッジブックスによる邦訳版もあり)。


 ちなみに、この『シークレット・インベージョン』のイベントの最中に、それとは全く関係なく、リミテッド・シリーズ『ザ・ラスト・ディフェンダーズ』#1-6(5-10/2008)が刊行される(ライターはジョー・ケイシーとキース・ギフェン)。

 この話は、『シビル・ウォー』後に、50ステート・イニシアティブ(全米の50州にそれぞれ独自のヒーローチームを創設し、防衛に当たらせる計画)の一環として、元ディフェンダーズのナイトホークをリーダーに創設された新ディフェンダーズが主役。
 ナイトホーク以外は、従来のディフェンダーズとは関係のない面々(シーハルク、コロッサス、ブレイジングスカル)が揃えられたためか、初任務でチームワークが十全に発揮できず、周囲に甚大な被害を撒いたチームは、アイアンマンによって即時解散される。
 しかし一度関わった任務から手を引くことを良しとしないナイトホークは、チームに残ったシーハルクと共にテロ組織サンズ・オブ・サーペントの陰謀に立ち向かうのだった……。

 で、このシリーズの#3に、2ページほどこの当時のドクター・ストレンジが登場。「現世に戻っては来たものの、まだ魔力も体調も全然戦えるレベルじゃない、今は単独で行動すべき時だ」とか説明セリフを述べつつ、旧ディフェンダーズのメンバーであるダイモン・ヘルストームに「多分、君の運命はじきにナイトホークと絡み合うだろう」的な助言をして、己の代わりにディフェンダーズの援助を促していた。



 なお、『ラスト・ディフェンダーズ』は、当時単行本化はされたものの、電子書籍版の単行本化はされず、単話版の電子書籍が配信という扱い(『ジ・オーダー』以上、『ディフェンダーズ:インデフェンシブル』以下、といったところか)。


 さて、『シークレット・インベージョン』後、従来のヒーロー・コミュニティの顔役だったアイアンマンは、スクラルによる侵略に充分な対応ができなかったことからシールドの司令官の座を降ろされ、代わりにノーマン・オズボーンが新組織ハンマー(H.A.M.M.E.R.)の司令官となり、ヒーロー・コミュニティを牛耳ることになる。

 で、以降のマーベルの各コミックブックでは、フッドらヴィラン軍団を密かに味方につけたオズボーンによって支配されるヒーロー・コミュニティの暗黒期を描いた「ダークレイン」展開が始まる(具体的には、コミック各誌の表紙に「ダークレイン」のロゴが冠され、オズボーンによる支配下で、各ヒーローらが苦悩する内容の話が語られていく感じ。『シークレット・インベージョン』の様に、一本筋の通った話を語るのではなく、各コミック誌で「コミュニティ全体の雰囲気」を語ることが目的のイベント)。

 これを受けて『ニューアベンジャーズ』誌でも、#48-55(2-9/2009)で、「ダークレイン」とのタイインをするのだが、この#51(5/2009)で、ドクター・ストレンジが再登場する。

 この作中で、ドクター・ストレンジは、彼の持っていた「ソーサラー・スプリーム」の称号を返上していたことが判明(世界の均衡をつかさどるソーサラー・スプリームには純粋さが必要とされるため、『ワールド・ウォー・ハルク』以降、暗黒魔術へ傾倒していたことがマズかった模様)。
 で、最近になってそこそこ魔力も回復したドクター・ストレンジは、自分に代わるソーサラー・スプリームを探し求めていたのだが、そこへストレンジの持つ魔法の呪具「アガモットの目」を狙うフッドが現われ、彼に重傷を負わせる。このためストレンジはニューアベンジャーズに助けを求め、彼らと共にフッドと戦いつつ、新ソーサラー・スプリームを探していく……。
 で、ネタバレになるが、最終的にアガモットの目は、ブラザー・ブードゥー(ジェリコ・ドラム)の手に渡り、彼とダイモン・ヘルストーム、ドクター・ストレンジの3人の合力で、フッドに憑りついていた妖魔ドルマムゥを祓う。そしてストレンジは、ブードゥーを新ソーサラー・スプリームとして鍛えることなる。



 こちらは「ダークレイン」期の『ニューアベンジャーズ』の後半、ドクター・ストレンジ関連の話のみを収録した『ニューアベンジャーズ:サーチ・フォー・ザ・ソーサラー・スプリーム』。『ニューアベンジャーズ』#51-54を収録(ヴィレッジブックスからは#48-55を収録した『ニューアベンジャーズ:ダークレイン』として刊行)。


 なお、同時期の『ハルク(vol.2)』#10-12(4-6/2009)では、ハルクによって再結成されたオリジナル・ディフェンダーズ(ハルク、サブマリナー、シルバーサーファー、ドクター・ストレンジ)が、レッドハルク率いるオフェンダーズ(レッドハルク、タイガーシャーク、テラックス、バロン・モルド―)と戦うという話が描かれているが、この話に登場するドクターは、過去の世界から連れてこられて来てるので、それほど気にしなくてよろしい(ベンディス側のストレンジの話に干渉しないよう、「現在のストレンジではない」ことにしたのだろう)。



 上の話はこちらの『ハルク:ハルク・ノー・モア』に収録。収録作品は『ハルク』#10-12と『インクレディブル・ハルク』#600。


 さて、「ダークレイン」以降の『ニューアベンジャーズ』は、オズボーンと共闘関係にあるフッド率いるスーパーヴィランとの戦いがメインとなっていく。……が、ブラザー・ブードゥーを鍛えるので忙しいストレンジは、同誌からはしばらく姿を消す。

 代わりにドクター・ストレンジは、J・マイケル・ストラジンスキーがライターを担当していた『ソー』#602(8/2009)にゲスト出演。ソーから機能不全を起こしている魔法のハンマー「ムジョルニア」の修復を求められた彼は、「自分には無理だがソーがこうすれば治せる」的な助言をし、ソーの次なる行動の指針を示すという、名バイプレイヤーぶりを見せた。



 こちらは『ソー バイ・J・マイケル・ストラジンスキー』の3巻目(最終巻)。『ソー:リボーン』(1巻目に相当)から続いてきた、素とラジンスキー期の最終巻。収録作品は『ソー』#601-603と『ソー:ジャイアント・サイズ・ファイナル』。


 やがて2009年末、『ニューアベンジャーズ』#60(2/2010)で、ストレンジはブードゥー(今やドクター・ブードゥーに改名)と共に再登場。ニューアベンジャーズの中核メンバーであるルーク・ケイジの体内を魔術で走査し、彼の体内にオズボーンが爆弾を仕掛けていたことを暴き、ハンク・ピム博士の物体縮小技術でケイジの体内に潜り、爆弾の除去手術を行うという、久々の「良い感じのサポートキャラ」の役目を果たす。



 同話を収録した『ニューアベンジャーズ:パワーロス』。『ニューアベンジャーズ』#55-60を収録(ヴィレッジブックスの邦訳版もあり)。
 

 で、この『ニューアベンジャーズ』#60の翌月から、ブライアン・マイケル・ベンディスがメインライターを務める、2010年の大型イベント、『シージ』全4号(3-6/2010)が始まる。

 同作は、当時、オクラホマ州の郊外に再建されていた(詳細は「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第8号『ソー・リボーン』を参照)、北欧の神々の都アスガルドに対し、ハンマーの司令官ノーマン・オズボーンが言いがかりをつけて侵攻を開始。これに対してソーや復活したキャプテン・アメリカ、オズボーンに追われる身となっていたアイアンマンの3人を中心に、ヒーロー・コミュニティが一致団結して対抗するという話であり(「シージ」は都市への侵攻を意味する)、最終的にオズボーンの野望は挫かれ、再びヒーローらの時代が戻ってくる。

 ただし、『シージ』本編にはドクター・ストレンジは未登場である(本編のクライマックスで、「アスガルドのジョーカー、ロキの犠牲によって生じた魔法の加護で、ヒーローらが強化され、恐るべきラスボスに対抗する」的な展開が用意されていたので、あんまりストレンジやブードゥーら、人間側の魔法系のキャラクターに出張らせたくなかったのだろう)。



 こちらは電子書籍版単行本。『シージ』全話と、増刊号『シージ:カバル』#1を収録(ヴィレッジブックスから出ていた邦訳版も内容は同じ)。


 なお、『シージ』本編での出番のなさを補うため……という訳でもなかろうが、『シージ』と大体同時期に、ストレンジを主役としたリミテッド・シリーズ『ストレンジ(vol.2)』#1-4(1-4/2010)が刊行されている。

 こちらは、ソーサラー・スプリームとしての称号を返上し、いくらか肩の荷が下りたストレンジが、ケーシー・キンモントなる女性と共に、いくつかのオカルトがらみの事件を解決していく話(ブードゥーは未登場)。まだハルクに破壊された腕が癒えていないストレンジは、最初の事件を解決する際に、ケーシーに簡単な解除呪文を教えており、事件後に彼女がその呪文を使ったことで、更なる騒動に巻き込まれていく……。



 こちらがリミテッド・シリーズ全4号を収録した『ストレンジ:ドクター・イズ・アウト』。表紙はコントラストの強いペン画調だが、中身の方はいわゆる「マンガ・スタイル」で、カラーリングもセル画調になっている(リンク先のサンプルを参照)。


 また、ストレンジの弟子であるドクター・ブードゥーも、『シージ』と同時期にリミテッド・シリーズ『ドクター・ブードゥー:アベンジャー・オブ・ザ・スーパーナチュラル』全5号(12/2009-4/2010)を獲得し、自身初となる主役誌を獲得している。

 内容的には、ドクター・ブードゥーと、彼の相棒であるダニエルの霊魂が、フッドに力を貸していたドルマムゥを封じたり、アガモットの目を求めるドクター・ドゥームと対決したり、現世への権限を目論むドクター・ストレンジの旧敵と交戦したり……といった、「ソーサラー・スプリームとしての使命」に邁進していく話。ドクター・ストレンジも#1と#4に少し登場。



 こちらが電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全話と、増刊号『ドクター・ブードゥー:ジ・オリジン・オブ・ジェリコ・ドラム』#1(2/2010、『ストレンジ・テールズ』誌に掲載されたブラザー・ブードゥーのオリジン話を再録)を収録。


 それから、2010年初頭に刊行された『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』#7-8(3-4/2010)に、ドクター・ブードゥーがゲスト出演している。前回のエントリでも紹介したヘッドプール(ゾンビ・デッドプール)を元の世界に戻そうとするデッドプールに、ソーサラー・スプリームらしく助言を与えつつ次元門を開き、デッドプール一行をアース-2149に転送させている(なおその際デッドプールは、「ソーサラー・スプリームには口ヒゲが付き物だろ? 生やさないの?」などと軽口を叩き、ブードゥーを閉口させた)。



 前回のエントリでもリンクを張ったが、こちらは『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全話を再録した『デッドプール・クラシック』第11巻の電子書籍版単行本(小学館集英社プロダクションから邦訳版も発売中)。


 で、『シージ』とのタイインした『ニューアベンジャーズ』#61-64(3-6/2010)をもって、『ニューアベンジャーズ』誌は5年余に渡る連載を終了。最終号と同月に刊行された増刊号『ニューアベンジャーズ・フィナーレ』#1(6/2010)で、長らくの仇敵だったフッド率いるスーパーヴィラン軍団との決戦をもって物語の幕を閉じる。



 こちらが『ニューアベンジャーズ』最終第13巻、『シージ:ニューアベンジャーズ』。『ニューアベンジャーズ』#61-64と、『ニューアベンジャーズ・フィナーレ』、『ニューアベンジャーズ』アニュアル#3、特別号『ダークレイン:ザ・リスト アベンジャーズ』を収録(ヴィレッジブックスから邦訳版も刊行されている)。


 そして『シージ』の後、マーベルは新たなヒーローの時代を描いた「ヒロイック・エイジ」イベントを開始(こちらは「ダークレイン」と同様、各コミックブックの表紙に「ヒロイック・エイジ」のロゴが冠され、それぞれのヒーローが迎えた新たな時代について描いていく)。

 で、この「ヒロイック・エイジ」とタイインする形で、『ニューアベンジャーズ』の系譜を継いだ新シリーズ、その名も『ニューアベンジャーズ(vol.2)』が創刊される(そのまんまだ)。こちらもライターは引き続きブライアン・マイケル・ベンディスが担当。

 で、この『ニューアベンジャーズ(vol.2)』の最初のストーリーアークとして#1-6(8/2010-1/2011)で展開された「ポゼッション」編で、ドクター・ストレンジに思いがけない転機が訪れる。

 ──キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーらによってアベンジャーズが再編成される一方で、ルーク・ケイジを中心とした今一つのチーム、ニューアベンジャーズも始動する。ケイジによって新メンバーが揃えられた直後、チームはドクター・ブードゥー、ドクター・ストレンジ、ダイモン・ヘルストームらと共に、アガモットの目を狙う謎の存在との戦いに巻き込まれてしまう。
 やがて、近年の時空を揺るがす戦いによって超自然界のパワーバランスが崩れていたこと、ヴィシャンティ(アガモット、ホゴス、オシュターの、3柱の神性による同盟。ソーサラー・スプリームに加護を与える)からアガモットが追放されていたこと、それ故にアガモット当人が、自身の魔力を取り戻すためにアガモットの目を求めていたことが判明する。
 最終的に、ドクター・ブードゥーは、アガモットに決闘を申し出、勝者が「目」を手にすることとする。で、色々あって、ブードゥーは、アガモットの手に「目」が渡るのを阻止するため、アガモットを道連れに自爆し、アガモット、ドクター・ブードゥー、アガモットの目が失われるのだった。そしてブードゥーの兄ダニエルの霊魂は、ストレンジのためにブードゥーが死んだとして、彼への復讐を誓うのだった……。



 こちらが、「ポゼッション」編を全話収録した単行本、『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol. 1』。


 そんな訳で、ベンディスが『ニューアベンジャーズ』の前シリーズで地道に紡いできた、ドクター・ストレンジ、ソーサラー・スプリーム、ドクター・ブードゥー絡みの話は、新シリーズの冒頭で、いきなりブードゥーが死ぬという急展開で、それ以上の発展が止まってしまう。

 なぜこんなことになったかは不明である。元々ドクター・ブードゥーのソーサラー・スプリーム継承をごく短期間で終わらせるつもりだったのかもしれない。あるいは、ブードゥーがソーサラー・スプリームになる展開が、思ったほどに読者の興味を惹けなかったのかもしれない。

 ともあれ新ソーサラー・スプリーム、ドクター・ブードゥーは、リミテッド・シリーズ1作と、幾度かのゲスト出演をした程度でマーベル・ユニバースから退場した。

 他方、ドクター・ストレンジは、続く『ニューアベンジャーズ』#7(2/2011)から、正式にニューアベンジャーズのメンバーとなり、まだ完全に魔力が回復しきっていないながらも、チームの重鎮として活躍を続けていく(なお、ブードゥーの死後も「ソーサラー・スプリーム」の座は空位のまま)。

 かくてストレンジは、「良い感じのサポートキャラ」から「『アベンジャーズ』誌の正規のレギュラー」に昇格。その後の彼は、2011年の大型クロスオーバー『フィアー・イットセルフ』(メインライターはマット・フラクション)や、2012年の大型クロスオーバー『アベンジャーズvs. X-MEN』(メインライターはベンディス)にもニューアベンジャーズのメンバーとして参加していく。



 こちらは『フィアー・イットセルフ』とタイインした『ニューアベンジャーズ』#14-16と、『アベンジャーズ』#13-17を収録した単行本『フィアー・イットセルフ:アベンジャーズ』。


 なお、『フィアー・イットセルフ』のタイインとして刊行された一連のリミテッド・シリーズの一つ『フィアー・イットセルフ:ザ・ディープ』#1-3(8-10/2011)で、ストレンジはサブマリナー、シルバーサーファー、シーハルク(ライラ)、ロア(アラニ・ライアン、サブマリナーと親しい若手ミュータント)と共にディフェンダーズを再結成。サブマリナーの仇敵アトゥマ(『フィアー・イットセルフ』の黒幕であるサーペントの加護を受けパワーアップしている)と戦っている。



 上は『フィアー・イットセルフ:ザ・ディープ』全3号と、『フィアー・イットセルフ:アンキャニー・X-フォース』全3号をカップリングした単行本『フィアー・イットセルフ:アンキャニー・X-フォース/ザ・ディープ』。




 こっちは『アベンジャーズvs. X-MEN』とのタイインを全話収録した『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol. 3』。『ニューアベンジャーズ』#24-30を収録。


 また、『フィアー・イットセルフ』が完結した直後の2011年末には、新『ディフェンダーズ(vol. 4)』オンゴーイング・シリーズが創刊されている。同作は、ドクター・ストレンジ、サブマリナー、シルバーサーファー、レッドシーハルク、アイアンフィストの5人が新たにディフェンダーズを創設し(後にブラックキャットも加入)、時空を揺るがす事件に当たる内容で、ライターに『フィアー・イットセルフ』のメインライターだったマット・フラクションを迎え、アーティストには当時の一線級のアーティストであるテリー・ドッドソンを充てるなど、そこそこ力の入った企画だったが……わずか12号で終了した(どうも近年の『ディフェンダーズ』は、12号を越せない)。





 この2012年度版『ディフェンダーズ』は、『ディフェンダーズ バイ・マット・フラクション』全2巻にまとめられている。収録作品は1巻が#1-6、2巻が#7-12を収録。


 なお、『ディフェンダーズ(vol. 4)』の終了から3ヶ月後に、新たなオンゴーイング・シリーズ『フィアレス・ディフェンダーズ』#1(4/2013)が創刊されているが、こちらは元ディフェンダーズのバルキリーが創設した女性チームであり、ドクター・ストレンジは特に関係ない。ちなみにこっちは13号で終了した(前シリーズよりも1話分頑張った)。



 こちらは全2巻が刊行された『フィアレス・ディフェンダーズ』の単行本1巻目。#1-6までを収録。


 閑話休題。

 さて、ベンディスによる大型クロスオーバー『アベンジャーズvs.X-MEN』の完結後、『ニューアベンジャーズ(vol.2)』#31-34(12/2012-1/2013)と『アベンジャーズ(vol.4)』#31-34(12/2012-1/2013)で展開された長編ストーリーライン「エンドタイムズ」編をもって、『ニューアベンジャーズ(vol.2)』と『アベンジャーズ(vol.4)』誌はひとまず完結することとなる──というか、2005年の『ニューアベンジャーズ』創刊以来、連綿と続いていたブライアン・マイケル・ベンディスによる『アベンジャーズ』関連誌の超長期連載が完結することとなる。

 そしてこの「エンドタイムズ」編の中で、『ニューアベンジャーズ(vol. 2)』の最初のエピソード以来、放置されていたドクター・ブードゥーの兄ダニエルの霊魂が再登場。ダイモン・ヘルストームを殺し、更にニューアベンジャーズのメンバーに憑りついて、ドクター・ストレンジへの復讐を遂行していく。

 で、紆余曲折の末に、ドクター・ストレンジは暗黒の魔術を用いてダニエルの怨霊を祓うことに成功。と、その直後、ストレンジの前にダイモン・ヘルストームの霊魂と、彼の師であるエンシェント・ワンの霊魂が現われる。
 そしてエンシェント・ワンは、今回の事件を仲間を傷つけることなく切り抜けたこと、ダニエルを倒す上で、暗黒の魔術に飲み込まれなかったこと、ソーサラー・スプリームの称号を返上したストレンジが、それでもなおこの次元を守ろうとし、ヒーローとして無償の献身を行ったことなどを称え、彼に修復したアガモットの目とクローク・オブ・レビテーションを与え、ソーサラー・スプリームに復帰させるのだった。

※この辺の描写だが、なぜ(一応、先代ソーサラー・スプリームとはいえ)一魔術師に過ぎないエンシェント・ワンがストレンジを「ソーサラー・スプリーム」に任命できたのか、なぜアガモットの目が元通りになっていたのか等、不可解な描写があるが、おそらくは、ソーサラー・スプリームを加護するヴィシャンティが関与していると思われる。
 根拠:「エンドタイムズ」の作中で、ヘルストームの霊魂が、別次元(あの世)から一連の事件の顛末を観察し、「この次元にはソーサラー・スプリームが必要である」ことを指摘すると、彼の傍らにいる何者かが「我々もその意見に同意しよう(We agree.)」と返事をしている。ここで「我々も」と言っていることから、おそらくはこのセリフを言っているのはエンシェント・ワンではなく、ヴィシャンティの面々であろうと推測される。



 こちらは「エンドタイムズ」編の『ニューアベンジャーズ』パートのみを収録した単行本『ニューアベンジャーズ バイ・ブライアン・マイケル・ベンディス Vol.. 5』。『ニューアベンジャーズ(vol.2)』#31-34を収録。


 ちなみに、本エピソードの時点でアガモットの生死は不明だが(アガモットの目が復活した以上は、その魔力の源であるアガモットも復活したと考えるのが筋だが)、一応、2022年の『ストレンジ・アカデミー』#16(4/2022)の冒頭で、ヴィシャンティの一員としてアガモットが再登場しているので、『ニューアベンジャーズ(vol.2)』でドクター・ブードゥーに倒されて以降、何らかの事情で復活を遂げた模様。



 こちらは該当号を収録した『ストレンジ・アカデミー:ウィッシュ・クラフト』。『ストレンジ・アカデミー』#13-18を収録。


 ついでに言えば、ドクター・ブードゥーとダニエルの霊魂は、2014年のマーベルの大型イベント『アベンジャーズ&X-MEN:アクシズ』(メインライターはリック・リメンダー)の作中で、ドクター・ドゥームがとある「亜神(Demigod)」と取引(魂なりを売るレベルだろうが詳細は不明)をしたことで復活を遂げ、物語の重要キャラクターである“悪に転じた”スカーレット・ウィッチを(ダニエルが憑依することで)無力化することに貢献している。



 上は『アクシス』単行本。キャプテン・アメリカ、の仇敵レッドスカルが、「レッド・オンスロート」に化身し、アベンジャーズ&X-MEN連合軍を蹴散らす。これに対して、マグニートーは、ドクター・ドゥーム他の悪人たちを集め、最終決戦を挑む。この時、ドゥームとスカーレット・ウィッチが用いた反転魔力の影響で、ヴィランたちが善人に、ヒーローたちが悪人になってしまうという事態が生じる……という話。


 話を戻す。

 さて、『アベンジャーズ(vol.4)』と『ニューアベンジャーズ(vol.2)』の完結をもって、長らく続いたブライアン・マイケル・ベンディス期が終了し、2013年初頭から、新たにジョナサン・ヒックマンをメインライターに迎えた『アベンジャーズ(vol.5)』(2/2013)と、『ニューアベンジャーズ(vol.3)』(3/2013)が創刊される。

 で、このうち『ニューアベンジャーズ』誌は、タイトルに反してブラックパンサー、ドクター・ストレンジ、アイアンマン、ミスター・ファンタスティック、ブラックボルト、サブマリナーらに加え、新メンバーとしてビースト(『アベンジャーズvs.X-MEN』で死亡したプロフェッサーXの後任)や、キャプテン・アメリカ(すぐに脱退)を加えた新生イルミナティが堂々の主役を務める話であった。で、当然ながら、ドクター・ストレンジはチームの知恵者として活躍することとなる。

 この新シリーズの最初のエピソードでは、平行世界同誌が衝突する超宇宙的災害「インカージョン」に際し、イルミナティの面々があらゆる手を尽くしてアース-616を守るという物語が描かれた。



 こちらは最初のエピソードを収録した、『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』。『ニューアベンジャーズ(vol.3)』#1-6を収録。ヴィレッジブックスから邦訳版も出ていた。


 続く『ニューアベンジャーズ(vol.3)』#7-12(8/2013-1/2014)は、2013年度の大型イベント『インフィニティ』(メインライターはジョナサン・ヒックマン)とのタイイン。

 『インフィニティ』本編は、深宇宙にて超宇宙的存在「ビルダーズ」との戦いにキャプテン・アメリカらアベンジャーズ本隊が赴いた隙を突き、サノスと腹心ブラックオーダーに率いられる軍勢が地球への侵攻を開始。これに対し、イルミナティの面々が立ち向かう……という話。『アベンジャーズ』のタイインでは、ビルダーズとの戦い、『ニューアベンジャーズ』のタイインではサノスの軍勢との戦いの詳細が、それぞれ描かれていった。

 なお、『インフィニティ』本編でのドクター・ストレンジは、サノスが求める「サノスの息子」の居場所を探知するものの、サノス配下のエボニー・マウにその情報を奪われ、記憶を消される(『インフィニティ』#3)……という物語の転機となる事件に関わった他、イルミナティの面々と共に、ワカンダでの最終決戦に参加するなどしている。



 こちらは『インフィニティ』とのクロスオーバー分を収録した単行本『ニューアベンジャーズ:インフィニティ』。ちなみにヴィレッジブックスからは、『インフィニティ』本編に、『アベンジャーズ』誌と『ニューアベンジャーズ』誌のタイイン話を時系列に沿ってまとめて、全3巻の日本オリジナル編集の邦訳単行本が刊行されていた。

 あと、『インフィニティ』合わせで創刊された新オンゴーイング・シリーズ『マイティ・アベンジャーズ』の#1-3(11/2013-1/2014)では、ゲスト出演したドクター・ストレンジが、エボニー・マウに操られ、ニューヨーク市市街に邪神シュマゴラスを召喚するという、中々に派手な展開があった。



 こちらがその単行本『マイティ・アベンジャーズ:ノー・シングル・ヒーロー』(なお、同シリーズのライターはアル・ユーイング)。『インフィニティ』タイインの#1-3と、同時期の『インヒューマニティ』イベントとタイインした#4-5を収録(『インヒューマニティ』は、『インフィニティ』でのサノスとインヒューマンズとの戦いの結果、地球全土にインヒューマンズの超能力の源であるテリジェン・ミストが撒かれてしまい、新たなインヒューマンズが誕生する……という話。新ミズ・マーベル/カマラ・カーンも、このイベントを期に超能力を得ている)。


 で、続く『ニューアベンジャーズ』#13-23(2-10/2014)でも、引き続きイルミナティはインカージョンに対処していき、アース-616を守るために、さらに多くの平行世界を滅ぼす決断をしていく。他方、ドクター・ストレンジは、イルミナティの他の面々が重大な決断をしているのに、己はそれらを見ているだけなことに耐えかね、伝説の「レゾリュート・スローン」に自身の魂を売ることで、インカージョンを止め得る神域の力を手に入れようとする……が、スローンの管理者である「ザ・レディ」から、「お前の魂には欠けがある故、取引の材料になりえない」と言われ、計画は頓挫する。



 こちらは#13-17を収録した『ニューアベンジャーズ:アザー・ワールズ』。ストレンジは#14で、スローンを訪れ、彼の魂を全て売ることを宣言するが、取引きの結果は描かれぬまま誌面から退場する。



 こっちは続刊で#18-23を収録した『ニューアベンジャーズ:パーフェクト・ワールド』。ストレンジは#18でアース-616に帰還し、そのままイルミナティの面々とアース-4290001を滅亡させる任務に赴く。で、#20の冒頭でストレンジが取引きに失敗した経緯と、代わりに彼が禁忌の魔導書「ブラッド・バイブル」に手を出したことが説明される。そして続く#21で、アース-4290001の地球を守るヒーローらは、ストレンジが禁術によって呼び出した妖魔によって滅ぼされる。
 しかし、いざアース-4290001を破壊する段になり、イルミナティの面々は倫理的な葛藤に陥り、最終的にサブマリナーが破滅爆弾のスイッチを押して滅亡を回避したものの、イルミナティは解散してしまう……。が、その直後、次のインカージョンがわずか8時間後に迫っていることが判明。これ以上、他の平行宇宙を破壊することを望まないイルミナティの面々は、滅びを受け容れ、静かにその時を待つが……。
(ちなみにヴィレッジブックスの『ニューアベンジャーズ』の邦訳は、この第3、4巻は飛ばされている)

 で、続く『ニューアベンジャーズ』#24-33(11/2014-6/2015)と、『アベンジャーズ(vol.5)』#35-44(11/2014-6/2015)で、長編クロスオーバー・ストーリーライン、「タイム・ランズ・アウト」編が展開される。

 ──インカージョン現象を止めるために密かに他の平行世界を滅ぼしていたイルミナティの所業を知った、キャプテン・アメリカ率いるアベンジャーズは、イルミナティの面々を「敵」と断じて彼らを捕らえようとする。一方、アベンジャーズのサンスポットは、インカージョン現象の原因を断つことを目論み、オーディンサン(元ソー)、ハイペリオンら有志と共にニューアベンジャーズ(マルチバーサル・アベンジャーズとも)を創設し、次元の彼方に旅立つ。他方、サブマリナーは、サノスらを味方に引き入れ、独自にインカージョン現象を阻止するチーム、「カバル」を創設し、アース-616と衝突しようとする他の平行世界を躊躇なく滅ぼしていく。そんな中、独自に探索を行うドクター・ドゥームは、全ての元凶にして、多元宇宙の彼方に潜む超宇宙的存在ビヨンダーズに迫る……てな感じのてなもんやの末に、遂に最後のインカージョンが起き、アース-616は不可避の滅亡の時を迎える。
 作中でのドクター・ストレンジは、物語の中盤で、インカージョンを止めることを目的とした集団「ブラック・プリースト」(インカージョンの焦点である2つの平行世界の「地球」を共に破壊することで、双方の宇宙の滅亡を防ごうとする勢力)のリーダーとなっていたことが判明。サンスポット率いるニューアベンジャーズと合流したストレンジは、共にインカージョンの原因とされるアイボリー・キングスと“偉大なる破壊者”ラブム・アラルの双方を倒す任務に赴く。ニューアベンジャーズがアイボリー・キングスの下に向かう一方(※全滅した)、ストレンジとブラック・プリーストらはラブム・アラルの拠点を襲撃し……彼一人を除いて全滅。そしてストレンジは、ラブム・アラルの正体が、時間と空間を超えてビヨンダーズと敵対してきたドクター・ドゥーム(と、相棒のモレキュールマン)であることを知る。




 この「タイム・ランズ・アウト」編は、『アベンジャーズ:タイム・ランズ・アウト』全4巻の単行本としてまとめられている(上はその1巻目)。ちなみにヴィレッジブックスからも「タイム・ランズ・アウト」の邦訳版が刊行されていたが、こちらは全3巻にまとめられている(収録内容は一緒)。

 で、「タイム・ランズ・アウト」編の完結と共に、『アベンジャーズ(vol.5)』、『ニューアベンジャーズ(vol.3)』は終了。物語は翌月から開始された2015年度の大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズ』#1-9(7/2015-3/2016、メインライターはジョナサン・ヒックマン)に続く。

 この『シークレット・ウォーズ』#1のラストで、アース-616は消滅。同世界を舞台としていた全てのオンゴーイング・シリーズも終了する。これを受け、続く数ヶ月に渡り、マーベル・コミックス社は通常のコミックの刊行を停止し、しばらくの間、『シークレット・ウォーズ』とそのタイイン・タイトルのみを刊行していくという、思い切った展開をしていく(その後、2015年10月から「オールニュー・オールディファレント・マーベル」と銘打ち、「『シークレット・ウォーズ』後の再生したアース-616」を舞台にした各ヒーローの新オンゴーイング・シリーズが一斉に創刊されていく)。

 で、「タイム・ランズ・アウト」の末期に、ドクター・ストレンジとモレキュールマンを伴い、超宇宙的存在ビヨンダーズ(アイボリー・キングス)との最終決戦に赴いたドクター・ドゥームは、ビヨンダーズを滅ぼすことに成功し、彼らの持つ全能のパワーを奪い、宇宙を再生する。結果、誕生したドゥームの統治する新世界「バトルワールド」においてストレンジは、「かつてあった世界」とその滅亡の記憶を持つ、ごくわずかな人間の一人となる。そうしてストレンジは、偉大なる統治者ゴッドエンペラー・ドゥームの腹心、シェリフ・スティーブン・ストレンジとして、新世界の平定に尽力する。
 が、やがて最後のインカージョンを生き延びていたミスター・ファンタスティック、スパイダーマン(マイルス・モラレス)らヒーローらの一団と、サブマリナー、サノスらカバルがバトルワールドに顕現。かつての世界の生き残りである彼らが、世界再生の鍵となることを悟ったストレンジは、彼らを自身の拠点にかくまうが、ほどなくしてドゥームに彼らの存在を知られてしまう。希望を消さぬため、ストレンジは魔法で一同を遠方へと転送し、ドゥームに処刑されるのだった(『シークレット・ウォーズ』#4)。

 その後、紆余曲折を経て、『シークレット・ウォーズ』#9(最終話)で、ドクター・ドゥームは最大のライバルであるミスター・ファンタスティックに敗北し、世界は元の姿を取り戻すのだった。



 こちらは『シークレット・ウォーズ』の単行本。リミテッド・シリーズ全9話と、『フリー・コミックブック・ディ2015:シークレット・ウォーズ』#0に掲載されたプロローグを収録。かつてはヴィレッジブックスから邦訳版も刊行され、『インフィニティ』、『タイム・ランズ・アウト』、『シークレット・ウォーズ』のヒックマン3部作のトリを飾った。


 ……で、前述したように、『シークレット・ウォーズ』と平行して、2015年10月から始まった「オールニュー・オールディファレント・マーベル」の新創刊タイトルの一つとして、ジェイソン・アーロンによる『ドクター・ストレンジ(vol.4)』#1(12/2015)が創刊。ドクター・ストレンジは20年の雌伏の時を経て、久しぶりに新オンゴーイング・シリーズを獲得したのだった。

 ちなみに「オールニュー・オールディファレント・マーベル」の一環として、『オールニュー・オールディファレント・アベンジャーズ』(ライター:マーク・ウェイド)、『ニューアベンジャーズ(vol.4)』(ライター:アル・ユーイング)、『アンキャニィ・アベンジャーズ(vol.3)』(ライター:ゲリー・ダガン)が創刊されたが、いずれのチームにもストレンジは参加していない(あと、『イルミナティ』なる新オンゴーイング・シリーズも創刊されたが、こちらはフッドが創設したヴィラン・チームで、ストレンジは関係ない)。……まあ、アーロンの『ドクター・ストレンジ』で、「この世界の魔法が消滅する!」的な展開をする以上、『アベンジャーズ』関連誌で顔を出して、魔法でサポートさせてるのはどうか、的な判断がなされたのだろう。

 以上。ストレンジの不遇の歴史を語るつもりが、『ニューアベンジャーズ』関連誌の歴史の流れになってしまったが。
  
  
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2023/08/26(土)09:33
■Marvel Zombies
■Writer: Robert Kirkman
■Penciler: Sean Phillips.
■翻訳: 田中敬邦
■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN: B0BLPBPCCM



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第22号は、大ヒット作『ウォーキング・デッド』の原作者であるロバート・カークマンをライターに迎え、ショーン・フィリップスがアートを担当した『マーベル・ゾンビーズ』シリーズの第1作(なお、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では第2作目以降の翻訳予定はない)。

 まあ、要するに「マーベル・ヒーローがゾンビと化して、超能力で人類を襲う」という悪趣味な話であるが、後半にマーベルの“飢えたる者”の究極であるギャラクタスを登場させ、ゾンビーズとの衝突とその先を描くことで、マーベル・ユニバースという宇宙的な広がりを持つ世界におけるゾンビものとして、充分以上のワンダーを提示した快作である(まあ、その後、無数の続編が作られて、当初のワンダーが徐々に褪せていくのは、人気ホラーシリーズの宿命ではある)。

 収録作品は、『マーベル・ゾンビーズ』#1-5。



 本書は、おそらく上にあげた、ソフトカバー版単行本が底本となっていると思われる。こちらも収録している号は同じ。

 ちなみに、本作が刊行された2006年頃というのは、マーベルの刊行するコミックの単行本化の流れは、一連のストーリーラインが終わってから数ヶ月と間を開けずにハードカバー単行本を刊行し、しばらく置いて、ソフトカバー単行本を出す、という具合だった(アメリカの一般書籍の売り方を真似した感じ)。

 で、当時、筆者はヘル高いハードカバー単行本などは買う気もなく、ソフトカバー版の刊行を待っていたのだが、『マーベル・ゾンビーズ』は、先行して出たハードカバー版が売れに売れてしまい、カバーアートを変えて5回も再版され、その度にソフトカバー版の発売が延期されるという、悪質なループに陥り、予約したソフトカバー版が届くのに偉く待たされたものだった。なんたるヘルか(いまだに根に持ってここで書く位に恨んでいる)。

 しかもマーベルは、ソフトカバー版発売の翌月には、まったく悪びれずに、『マーベル・ゾンビーズ』の一連のカバーイラストをまとめた画集、『マーベル・ゾンビーズ:ザ・カバー』なんて代物も刊行している。



 こちらがその単行本。元々『マーベル・ゾンビーズ』は、単刊のコミックブックが大人気で、これらの号も幾度もカバーを変えて再版された結果、こんな単行本まで出せるほどにカバーアートが貯まっていた。なお本書はハードカバーのみでソフトカバー・電子書籍版は刊行されてない。

 どうでもいいが、カバーアーティストの Arthur Suydamの名字は、古いオランダ語に由来しており、「アーサー・スイダム」ではなく「アーサー・スーダム(sü- dam)」と読む。

 閑話休題。


 参考までに、本作は2012年にヴィレッジブックスから邦訳版が発売されている。



 収録内容はやはり『マーベル・ゾンビーズ』#1-5。






 同作は日本でもヒットし、続編である『マーベル・ゾンビーズ2』と、前日譚を集めた『マーベルゾンビーズ:デッド・デイズ』も刊行された。


 さて以降は、『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠した作品・関連作品を、刊行年順に紹介していく。

 そもそも『マーベル・ゾンビーズ』の物語の舞台となる世界(アース-2149)は、2005年に刊行された『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23(9-11/2005)にて展開されたストーリーライン、「クロスオーバー」にて初登場した。この話は、同作の主人公であるアルティメット・ユニバース版のリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)が、平行世界に住む自分自身(外観は、本来のマーベル・ユニバースのミスター・ファンタスティックとそっくり)と接触し、彼の導きでそちらの世界に行くが、実はそちらの地球は、ゾンビと化したヒーローらによって文明が崩壊した、ポスト・アポカリプスな世界であった……という内容。

 その後、ゾンビ・ファンタスティック・フォーがアルティメット・ユニバース(アース-1610)に到来する一方、アルティメット世界のリードがゾンビ世界に囚われるという苦境に陥るが、最終的にどうにか事態は収束し、ゾンビ・ファンタスティック・フォーの4人は、アルティメット・ユニバースのバクスター・ビルディング(ファンタスティック・フォーが身を寄せている政府運営のシンクタンクの拠点)に収監される。



 上はこの話を収録した、『アルティメット・ファンタスティック・フォー:クロスオーバー』(単行本5巻)。収録話は『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-26(※以降、各ストーリーラインをまとめた単行本へのリンクを適宜貼っていくが、『マーベル・ゾンビーズ』の物語をきちんと追いたい場合は、本稿の最後の最後で紹介する『マーベル・ゾンビーズ:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻を購入することを勧める)。


 で、この話に登場した、「ヒーローらがゾンビと化した世界」に可能性を感じた『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の編集者ラルフ・マッキオは、この世界を舞台としたスピンオフのリミテッド・シリーズを立ち上げることとした。で、当時ゾンビもののコミックの大ヒット作『ウォーキング・デッド』で気炎を吐いていたロバート・カークマンに白羽の矢が当たった(分かりやすい)。

 当時刊行された情報誌『マーベル・スポットライト』のカークマンのインタビューによれば、『マーベル・ゾンビーズ』に関わることになったきっかけは、以下のような具合だったという。

──その少し前、カークマンはマーベル・コミックスの編集者トム・ブレボートと電話で話をしていた。で、カークマンはブレボートに対し、散々自作『ウォーキング・デッド』の売上げの自慢をした末に(当時の『ウォーキング・デッド』の単行本は、マーベル、DCの単行本以上に売れていて、各巻が年間ベスト100にランクイン。「大手出版社の刊行物でも、ヒーローものでもないのに大ヒットしてる、すごい」という感じの評価を受けていた)、「君らんとこでもゾンビものをやる時は、声をかけてくれよ!」とジョークを飛ばした。すると3週間後、ブレボートから話を聞いたラルフ・マッキオが、カークマンに『マーベル・ゾンビーズ』の企画を打診したのだという(大ヒット作家はうっかりジョークも飛ばせない)。

 で、カークマンは『マーベル・ゾンビーズ』のプロットを練り(まだ『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の完成原稿もできていない時期に仕事をオファーされたため、同号の脚本を参考に案を考えたとのこと)、やがて2005年後半から『マーベル・ゾンビーズ』リミテッド・シリーズ全5号の連載が開始された(12/2005-4/2007)。

 で、『マーベル・ゾンビーズ』は恐るべきヒットを飛ばし、各イシューは繰り返し繰り返しリプリントされ、その後に刊行されたハードカバー版単行本にも予約が殺到したため、マーベル編集部は間を開けずに『マーベル・ゾンビーズ』関連の新作を複数同時に送り出すこととした。

 その第1弾が、リミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』#1-5(5-9/2007)である。

 この作品は、当時ダイナマイト・エンターテインメント社が刊行していたコミック『アーミー・オブ・ダークネス』(カルト映画『死霊のはらわた』シリーズが原作)との会社間クロスオーバーで、ダイナマイトが刊行していた『アーミー・オブ・ダークネス』#13(1/2007、最終号)のラストから、直接話が続いている。

 #13のラストで、邪悪な儀式によって殺されたはずの主人公アッシュ・ウィリアムズは、何故だか次元の彼方に飛ばされ、アース-2149に顕現する。そこで、魔導書ネクロノミコン(死者の書)に憑依されたホームレスから、まもなくこの世界が滅亡し、死者の軍団が顕現することを告げられる。急いでアベンジャーズに連絡を取り、その事実を告げたアッシュだったが、彼の大雑把な説明は誰からも信じられず、するうち次元の彼方からゾンビ化したセントリー(ロバート・レイノルズ)が到来し、アベンジャーズを喰らい、ゾンビに変えてしまう……という具合に、物語的には『マーベル・ゾンビーズ』の前日譚で、アーズ-2149の地球がいかにゾンビによって壊滅させられたかが描かれていく(「異界から飛来したゾンビ・セントリーがアベンジャーズをゾンビに変えた」という話自体は、既に『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#22の作中で描かれていたもので、本作はそれを拡張したものとなる)。

 で、紆余曲折の末に、アース-2149のドクター・ドゥーム(もはや滅亡は避けられぬと悟り、自身の統治するラトヴェリアの民を別次元に逃がしていた)の協力で、別次元に脱出したアッシュだったが、行きついた先は人狼と化したヒーローらが人類を滅ぼした世界だった……というお約束なオチで、このリミテッド・シリーズは幕を閉じる。

※その後アッシュは、まあなんとか次元間移動に成功し、元いた世界に帰還するが、前シリーズラストの儀式によって誕生した邪悪なアッシュ、エビル・アッシュ・プライムによって、故郷デトロイトは壊滅していた……という具合に、ダイナマイト・エンターテインメント刊行のリミテッド・シリーズ『アーミー・オブ・ダークネス:フロム・ザ・アッシュズ』#1(8/2007)に続く。



 ちなみに『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』は、会社間クロスオーバーということもあり、権利関係上、電子書籍化はされていない(上は当時刊行されたハードカバー単行本。本作唯一の単行本になる)。


 また、このクロスオーバーと同時期に、本家『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の#30-32(7-8, 10/2006)で展開された「フライトフル」ストーリーラインで、ゾンビ・ファンタスティック・フォーが再登場した。

 この話では、「ゾンビ・ファンタスティック・フォーが脱走し、ゾンビ世界とアルティメット・ユニバースの間に次元門を開こうとする」「ヒューマントーチの体内に太古の邪神が憑依していたことが判明」「邪神に対処するため、ファンタスティック・フォーは魔術に精通したドクター・ドゥームの援助を求めるが、ドゥームは援助の見返りにリードと肉体を交換する」と言った未曽有の危機が同時に勃発し、最終的に「リードの肉体を奪ったドゥームが、邪神をヒューマントーチの身体から祓うが、誤ってドゥームの肉体に邪神が憑依してしまう」「ドゥームの肉体に囚われたリードは、魔術を駆使してゾンビ・ファンタスティック・フォーを倒し、邪神が憑依した自身の肉体を、ゾンビ世界に放逐しようとする」「しかし誇り高いドゥームは、自身のミスをリードにフォローされるのが我慢ならず、肉体の交換を解消。邪神をその身に宿したまま、ゾンビ世界に消える」という具合に決着が付けられる(なおこの話は時系列的には『マーベル・ゾンビーズ』のラストで、ゾンビ・ヒーローらがギャラクタスを食った前後の出来事になる)。

※ちなみにその後ドゥームは、いつの間にかアルティメット・ユニバースに戻って悪だくみをしてたと思ったら、「実はロボットでした」オチだったり、今度こそ帰ってきたと思ったらシングに殺され、いつの間にか復活したと思ったら、「復活したのではなく、ゾンビ世界から帰ってきたドゥームである」「シングが殺したのは別人だった」という説明がされ、その後大した活躍もせず、2015年の『シークレット・ウォーズ』でアルティメット・ユニバースが消滅して以降、再登場していない(シュレディンガーのドゥーム)。




 この「フライトフル」の話は、『アルティメット・ファンタスティック・フォー:フライトフル』(第6巻)に収録。収録話は『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#27-32。


 そして、本家マーベル・ユニバース(アース-616)が舞台の『ブラックパンサー(vol.4)』誌でも、#28-30(7-8, 10/2007)にかけて展開されたストーリーラインで『マーベル・ゾンビーズ』とクロスオーバーした(詳細は、こないだ紹介した『ブラックパンサー(vol.4)』についてのエントリを参照。時系列的には『マーベル・ゾンビーズ』のラストで、ゾンビ・ヒーローズが宇宙の彼方に旅立った後の話)。


 で、これら3本のストーリーラインと同時期に、カークマンが再びライターを務めたワンショット(単発の増刊号)、『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1(7/2007)も刊行された。こちらはゾンビ・セントリーによってアベンジャーズがゾンビと化した直後を舞台に、ニック・フューリー率いる残存ヒーローらとゾンビ・ヒーローらとの最終決戦と、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』、『マーベル・ゾンビーズ』、『マーベル・ゾンビーズ/アーミー・オブ・ダークネス』の各作品に繋がる各キャラクターの去就が描かれた。




 で、こちらの単行本『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』は、この時期の『マーベル・ゾンビーズ』のストーリーを一冊にまとめた単行本。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23、#30-32、『ブラックパンサー(vol. 4)』 #28–30。ちなみに『マーベル・ゾンビーズ』人気のお陰で、こちらの単行本の電子書籍版は、かなり格安で販売されている。ありがたい。


 で、これら一連のストーリーラインも大好評を博した結果、マーベル編集部は、2007年秋から、リミテッド・シリーズ第3弾、『マーベル・ゾンビーズ2』全5号(12/2007-4/2008)を刊行する(ライターは引き続きカークマン)。

 内容的には、『マーベル・ゾンビーズ』のラストから40年後、全宇宙を喰い尽くしたゾンビ・ヒーローズらは、かつて破壊された次元転移装置を再生して、別の宇宙へ侵攻することを思い立ち、全ての始まりの地、地球に帰還する。一方、地球では、ゾンビの猛襲を生き延びたブラックパンサーが、生き残った市民を集め、ニュー・ワカンダを築き、細々と文明を復興させていたが、40年の歳月は、彼のカリスマに陰りを生じさせていた。そんな中、ゾンビの“人肉への無限の渇望”を解消する手段が発見されたことで、ゾンビ・ヒーローズらは2派に分かれ、戦いを始める……。

 で、紆余曲折を経て、ゾンビと人類は和解するのだが、最後の裏切りにより、生き残ったゾンビ・ヒーローズは、次元の彼方に放逐されてしまうのだった。




 こちらは『マーベル・ゾンビーズ2』の単行本。全5話を収録。

 で、この『マーベル・ゾンビーズ2』をもって、マーベル・ゾンビーズ世界からはゾンビの害が永遠に除かれることとなり、物語には一応の決着が着いた。……のだが、人気があればどうにでも理由をつけて続編が作られるのは、まあ、ヒット作品の常である。


 そんな訳で、2008年秋から、ナンバリングタイトル第3弾、『マーベル・ゾンビーズ3』全4号(12/2008-3/2009)が刊行された。本作のライターは、カークマンに代わり、当時マーベルで『インクレディブル・ハーキュリーズ』の連載を手掛けていた(共著:グレッグ・パック)、フレッド・ヴァン・レントが担当した。で、本作からはゾンビ側でなく、それを撃退しようとする人間側が主役の、まあ、普通のパンデミック・ホラーとなる。

 ──フロリダの沼沢地帯にある、平行世界との交錯点「ネクサス・オブ・オール・リアリティ」(マーベルの古参怪奇キャラクター、マンシングのコミックに登場する特異点)を通じてアース-2149のゾンビ・モービウス、ゾンビ・デッドプールがアース-616こと本家マーベル・ユニバースに顕現。対応に向かったフロリダのイニシアティブ(『シビル・ウォー』後に各州に置かれることになったヒーローチームの総称)「コマンド―」は壊滅するも、辛うじてゾンビ・デッドプールの撃破とゾンビ・モービウスの捕獲に成功する。
 やがて多元宇宙関連の事件の監視組織「A.R.M.O.R.(アーマー)」に協力するモービウス(マイケル・モービウス博士)は、ゾンビがウィルスによって感染することを発見。アーマーに協力するマシンマン、ジャコスタをアース-2149に派遣する。その目的は、ゾンビ・ウィルスのワクチンを開発するため、あちらの世界でゾンビ・ウィルスに未感染の人間を確保することだった(なおマシンマンらは機械生命体なので、ゾンビ・ウィルスには感染しない)。
 マシンマンらが顕現したのは、『マーベル・ゾンビーズ』第1作のラストの後(コズミック・パワーを得たゾンビ・ヒーローが地球を離れた後)のニューヨーク市──ゾンビ・キングピンが、ゾンビ・ジャッカルに製造させたクローン人間を餌として他のゾンビに供給することで、歪な秩序を築き上げた死の都だった。
 他方、アース-616では、モービウス博士と入れ替わったゾンビ・モービウスにより、アーマー基地内でゾンビ・パンデミックが発生していた……。




 こちらがその単行本。『マーベル・ゾンビーズ3』全4話を収録。

 で、この『マーベル・ゾンビーズ3』は、ラストでなんとか事態は収拾したものの、「実はアース-2149からやってきていたゾンビが、テレポーターを用いてこの世界のいずこかへ逃走していた」ことが判明。モービウス博士がワーウルフ、ヘルストーム、ジェニファー・ケールといった怪奇系ヒーローを集めた新生ミッドナイト・サンズを創設し、逃げたゾンビの跡を追う……というところで、「『マーベル・ゾンビーズ4』に続く!」とアオられて終わる(続編を前提にシリーズを展開していくのは、「かつての人気ホラー映画シリーズの末期」みがある)。

※「ミッドナイト・サンズ」は、元々1990年代にゴーストライダー&ブレーズ、ナイトストーカーズ、モービウス、ダークホールド・レディーマーズらが結成した対オカルトチーム。

 で、『3』の終了から、間を開けずにリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ4』全4号(6-9/2009)はスタートした。ライターは引き続き、フレッド・ヴァン・レントが担当し、アーティストも前作と同じくケブ・ウォーカーが務めた。

 物語は『3』のラストで予告された通り、モービウス博士率いるミッドナイト・サンズが世界のいずこかに転送されたアース-2149のゾンビを追う話。やがて、一連の事件の元凶が、『3』の冒頭で死んだはずのゾンビ・デッドプール(現在は頭だけになっている)であり、偶然、沼沢地帯で彼と遭遇したゾンビ―(サイモン・ガース、マーベル・コミックスの古参怪奇系キャラクター。なぜか死後も肉体に魂が宿ったブードゥー系ゾンビ)が、デッドプールの首を持ってテレポートしていたことが判明する。
 で、当時のマーベルの『ニューアベンジャーズ』誌などで暗躍していたヴィラン、ザ・フッド(パーカー・ロビンズ)と、彼の魔力の供給源である異世界ダーク・ディメンジョンの支配者ドルマムゥは、デッドプールを確保しようとし、絶海の孤島でミッドナイト・サンズと交戦する。色々あって、「血の様な雨を降らし、それに打たれると人間をゾンビに変えてしまう雨雲」が発生し、「雲が文明社会に流れてく恐れがあるので、数時間後に雲めがけて核爆弾を投下する」とかいう、パンデミックものお定まりの展開が勃発する。

 で、最終的にミッドナイト・サンズとマンシング、ゾンビ―らの尽力によって、パンデミックの拡散は阻止されるのだった。



 こちらが『マーベル・ゾンビーズ4』の単行本。全4号を収録。

 ちなみに、『4』の事件の発端となったゾンビ・デッドプールは、その後“親友”のゾンビーと別れ、流浪の末に南極の奥地サベッジ・ランドに流れ着く。その先の彼の運命は、『ゾンビーズ』シリーズではなく、本家デッドプールを主役に据えたリミテッド・シリーズ『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全13号にて語られることとなる。



 こちらは過去の『デッドプール』のコミックのシリーズを年代順に再録した単行本『デッドプール・クラシックス』 の第11巻目で、『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』全13話(9/2009-9/2010)と、同シリーズからのスピンオフ・ワンショット『レディ・デッドプール』#1(9/2010)を収録。




 なお、『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』は、2013年に小学館集英社プロダクションから邦訳版が刊行され、2018年には電子書籍版もリリースされている。『マーベル・ゾンビーズ』からのスピンオフ・キャラクターとしては最も有名になったゾンビ・デッドプール(ヘッドプール)の雄姿を日本語で堪能したい方はこちらを読むのもいいだろう。


 さて、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズがスマッシュヒットを飛ばしたのを受け、マーベルはこの種のキワモノなシリーズをさらに送り出すこととする。そうして、2008年秋に送り出されたのが、サル系の擬人化動物の住む世界を舞台にしたリミテッド・シリーズ、『マーベル・エイプス』全4号(11-12/2008、隔週刊)である。



 こちらはその単行本。リミテッド・シリーズ全4話と、本作の主役ギボン(マーティー・ブランク、猿に似た風体のミュータント)の初登場話である『アメイジング・スパイダーマン』#110-111(4-5/1972)を再録。


 ベテランライターのカール・ケセルを迎えて、送り出されたこの『マーベル・エイプス』だが、あんまり思ってたほどはヒットしなかったらしく、とりあえず、2009年初頭から第2弾となるワンショット群を刊行し、そこで『マーベル・ゾンビーズ』とクロスオーバーをすることで、まあ、最後の花火を打ち上げつつ、早々に風呂敷を畳むこととなった。

 そうして、『マーベル・エイプス:スピードボール・スペシャル』#1(5/2009)、『マーベル・エイプス:アメイジング・スパイダーモンキー』#1(6/2009)、『マーベル・エイプス:グラントライン・スぺシャル』#1(7/2009)と、毎月1号ずつ刊行されていった特別号の作中で、『マーベル・エイプス』の舞台である平行世界に、『マーベル・ゾンビーズ』世界のゾンビたち(時系列的には『デッド・デイズ』の直後)が徐々に侵攻していく様子が描かれていき、ついにリミテッド・シリーズ『マーベル・エイプス:プライム・エイト・スペシャル』#1-3(9-11/2009)で、ゾンビ・ジャイアントマン&ゾンビ・ワスプに導かれたゾンビ・ヒーローらが『マーベル・エイプス』の世界に乗り込んでくる。これに対し、『マーベル・エイプス』世界のエリートである、アイアンマンドリルやチャールズ・エグゼイピア、シルバーバックサーファーらが「プライム・エイト」なるチームを組み、立ち向かっていく。最終的に、プライム・エイトの合力によりゾンビたちは元の世界に戻されるが、実はプライム・エイトのメンバーの一人がゾンビと化していて(ゾンビもののオチとしてありうべき奴)……という具合に、物語はいったん完結する。

 で、1月間をおいて、2009年末に刊行されたワンショット『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』#1(1/2010)で、『マーベル・エイプス』vs.『マーベル・ゾンビーズ』の物語は完結する(こちらもライターはカール・ケセル)。
 ──プライム・エイトのメンバーの一人の裏切りにより、次元の門が再び開かれ、『マーベル・エイプス』世界に大量のゾンビが流入してくる。一方、オリジナルの『マーベル・エイプス』の物語で主役を務めていたギボン、エイプX、ゴリラガールら、アース-616出身の「ゴリラ系ヒーロー」ら一行は、よりにもよってこのタイミングで『マーベル・エイプス』世界に再び顕現してしまう。
 と、言った具合な状況設定で、ギボン、エイプXらが事態の収拾を試み、最終的に時空間のアレで、『マーベル・エイプス』世界と『マーベル・ゾンビーズ』世界の遭遇は、うまいことアレされるのだった(連綿と続いている『マーベル・ゾンビーズ』の世界観をイジることを良しとせず、アレな具合にオチを付けたカール・ケセルの賢明さに敬礼)。



 上は『マーベル・エイプス:スピードボール・スペシャル』~『プライム・エイト・スペシャル』までのストーリーラインを取りまとめた単行本『マーベル・エイプス:ジ・エボリューション・スターツ・ヒア!』。しかしなぜかこの単行本には、肝心の最終章『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』が収録されてない。




 幸い、Kindleには、『エビル・エボリューション』が単話発売されているので、こちらのみ単独で買うのも良いかもしれない。


 で、この『マーベル・エイプス』の展開と平行して、2009年秋から新たな『ゾンビーズ』のシリーズ、『マーベル・ゾンビーズ・リターン』全5号が始動する(11/2009、週刊)。……ナンバリングタイトルではなく、あえて「リターン」とつけるあたりが、手詰まりしかけた人気ホラーシリーズ感がある。ちなみに、当時の読者もそろそろ本シリーズに飽きてきていて、本作のレビューには「一発ネタをここまで長く引っ張ってきたことを評価したい」的な感想も散見された。

 そして本作は、『3』、『4』の物語の続ではなく、『マーベル・ゾンビーズ2』の直接の続編となっており、『2』のラストで異次元に放逐されたアース-2149のゾンビ・ヒーローズのその後を描く物語となっていた(なお面倒くさいので、一部のゾンビ・ヒーローが持っていたコズミック・パワーは“次元転移の影響で”消失した<B級ホラーの設定なんて、こんなモンでよろしい)。

 ……なんでも、編集部内で「次の『ゾンビーズ』をどうするか」について話し合ってたところに、たまたま通りかかった営業の偉い人から「最近のシリーズには、初期の人気ゾンビが登場しないので、彼らを再登場させてよ」と要望があったため、ゾンビ・スパイダーマンやゾンビ・ウルヴァリンといったキャラクターを帰還(リターン)させる流れになったらしい。

 で、本シリーズは、『4』に引き続き、フレッド・ヴァン・レントがライターとして起用されたのだが、当時の彼はそこそこ忙しかったため、全5号のうち1号目と5号目の脚本のみを担当し、間の3号は各号別のゲスト・ライターによる読み切りを挟むという構成の話となった。

 ──平行世界「アース-Z」に顕現したゾンビ・スパイダーマンは、自らの行いを悔い、ゾンビの食欲を抑えるワクチンを開発して仲間たちの治療を試みる。他方、同様にアース-Zに顕現したゾンビ・ジャイアントマンは、この世界のウォッチャー(宇宙の運命に関わる事象の観察・記録を目的とする種族の一人)が持っていた次元間転送機を用いて、他の世界への侵出を目論む。かくてこの2人の思惑に、アース-Zのヒーローらが巻き込まれ、世界はゾンビの食欲に飲み込まれていく。

 最終的に、ゾンビ・スパイダーマンはゾンビ・ジャイアントマンの凶行を止めることに成功する一方で、とあるアース-Zのヒーローが時間と空間を跳躍し、『マーベル・ゾンビーズ』の物語は円環を成す(シリーズ末期のオチが第1作に繋がる、というのもシリーズものではよくある話だ)。



 こちらが『マーベル・ゾンビーズ・リターン』の単行本。全5話を収録。


 ……で、当時、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズを追っていた筆者は、この『マーベル・ゾンビーズ・リターン』をもって「割といい具合に大団円を迎えた」と思い、以降の作品は熱心に追わなくなった。ので、以降の作品の説明は割と雑になるがご容赦いただきたい。


 さて、『リターン』で良い具合にオチが付いたはずの『ゾンビーズ』だったが、だいたい半年後の翌2010年夏に、新たなリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ5』全5号(6-10/2010)が刊行された。本作は再びナンバリングタイトルに戻り、話的には『4』の続きとなっている。ライターはやはりフレッド・ヴァン・レント。

 物語は、平行世界間を襲った「ブレーンストーム(次元嵐)」の影響で、方々の平行世界に局地的にゾンビ・ウィルスが撒かれた、という状況下で、おなじみマシンマンと、相棒H(割と出オチなので正体は伏す)、それに#1で初登場したガンマンのクイック・ドローの3人が、平行世界(時代設定は中世、西部開拓時代、コミック『キルレイヴン』、『アイアンマン2020』をベースにした近未来と多様)を旅し、ゾンビの被害をだいたい抑えつつ、とある目的のためにゾンビたちのサンプルを集めてく……という具合。

 1話で1つの世界のゾンビ渦をサッと解決するシンプルな話で、従来の様な「ゾンビを何とかしないと、我々の世界が大変なことに!」という切迫感は薄れ、軽いノリで話は進む。最終的に主人公らは目的を達成でき、ゾンビもののお約束にツッコミを入れる会話をしつつ、帰還する(シリーズが進むとメタに言及しだすのも、シリーズもののホラーにはありがち)。



 こちらが単行本。全5話を収録。……あ、表紙に相棒Hが描かれてるわ。


 次、2011年春に開始されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』全5話(5, 5-8/2011)。手短に言えば、DCコミックス社のジャスティス・リーグを元ネタとしたヒーローチーム「スコードロン・スプリーム」がゾンビになって暴れ回る話。これまでの『マーベル・ゾンビーズ』と物語的な繫がりはなく、ゾンビが登場する話に『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠してブランドにしてる感じである(適当なジャンル映画に『ゾンビ』だの『アルマゲドン』だのといった邦題を付けて人気作品のイメージに寄せる感じのアレだ)。

 アース-616の先進の科学を研究する機関プロジェクト・ペガサスで、とある科学者がヒーローチーム、スコードロン・スプリームの残した遺伝子サンプルを元に実験を行っていたところ、実験が致命的に失敗し、ゾンビ化したスコードロン・スプリームのクローンが誕生する。これに対してペガサスのセキュリティチーム、「ガーズマン・アルファ・スクワッド」(本作で初登場、ごく普通の特殊部隊)とヒーローのバトルスター(この人も、キャプテン・アメリカに毛が生えた程度の身体能力)らが対処していく話。なんていうか、これまでの湿度の高いスプラッター・ホラーから、『バイオハザード』系のカラッとしたゾンビものに振った感じの話。

 で、本作の半ばで、『アベンジャーズ・ディスアッセンブルド』で死亡したはずのジャック・オブ・ハーツが復活するというイベントがあり(とある科学者は、ジャックの持つゼロ・エネルギーを利用してゾンビ・スコードロンを生み出した)。最終的にジャックのエネルギー操作能力で、ゾンビ渦は終結。ヒーローとしてのアイデンティティを取り戻したジャックとアルファ・スクワッドの女リーダー、ジル・ハーパーがキスをして、物語は幕を閉じる(この終わり方も、『バイオハザード』系の明るいゾンビ映画っぽい)。



 こちら単行本。全5話を収録。


 続いて『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』は、やはり2011年夏、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』に少し遅れて刊行された全5号のリミテッド・シリーズ(8, 8-10, 10/2011)。

 当時ヒットし、グラフィック・ノベルまで刊行されていたマッシュアップ小説『高慢と偏見とゾンビ』をヒントに、チャールズ・ディケンズの古典『クリスマス・キャロル』にゾンビを混ぜ込んが。……おそらく、『マーベル・ゾンビーズ』とは全く関係ないところから立ち上がった企画に、営業上の理由で『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠した感じ。

※ちなみに本作のクレジット上の正式なタイトルは『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』なのだが、表紙に記載されているタイトルは『ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』で、この辺からも何か複雑な事情が匂ってくる。

 クリスマス・イブの夜、守銭奴の富豪スクルージの枕元に、クリスマスの精霊(のゾンビ)が現われる。彼らは、スクルージの利己的で強欲な行いのために、今やロンドンの街にゾンビが溢れかえっていることを告げ、ゾンビにまつわる過去・現在・未来の出来事をスクルージに見せていく……という話。個人的には、ゾンビ・マッシュアップものとしてはそこそこ上出来な内容で、『マーベル・ゾンビーズ』とは関係なしに、マッシュアップ物の好きな方に読んで欲しいと思う。



 こちらがその単行本。全5話を収録。前述の通り、表紙は『ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』となっている。紹介しといてなんだが、個人的にはこれは『マーベル・ゾンビーズ』シリーズにはカウントしたくない。


 続いては、2012年に刊行されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ・デストロイ!』全5号(7-9/2012、隔週刊)。ライターは『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』を手掛けたフランク・マラフィーノが担当。

 アース-616の古参シールド隊員、ダムダム・デュガンが、アーマーの要請を受け、特務部隊「ダッキー・ダズン」に参加。ゾンビによる不死の軍団を擁するナチスドイツが世界を征服した平行世界アース-12591に赴く。部隊はゾンビと化したアメリカのヒーローや、北欧神話の神々のゾンビ(ナチスと北欧神話は縁深いので)、マーベルの定番ナチス・キャラクターのゾンビ等々と遭遇した末に、ナチスの次元間移動のソースを発見→最終決戦→爆発オチ→様式美の「THE END?」で終幕(雑なまとめ)。

 なお、ダッキー・ダズンには、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』に登場したバトルスターも参加しているため、本作は『マーベル・ゾンビーズ5』から続くアーマー関連の話であると同時に、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』とも接点を持つ話となっている。



 こちらが単行本。全5話を収録。


 次、『マーベル・ゾンビーズ・ハロウィーン』#1(12/2012)。2012年10月に刊行されたワンショットで、ライターはお久しぶりのフレッド・ヴァン・レント。

 舞台はゾンビ渦後のアース-2149と思しき世界(まあ、特に大事件は起きないので、どの世界でもよろしいが)。荒野の一軒家に立てこもり、ゾンビと戦い続ける母親と、その息子のピーター、そして黒猫のブラッキーが、ハロウィーンの夜に遭遇したゾンビと怪異の物語。

 母子が遭遇した(マーベル・ユニバースならではの)怪異の正体と、“彼”によって明かされる母親の素性と、小品ながら「なるほど」と思わせる構成の妙が好き。



 こちらは単話版の電子書籍。


 でー、その後2015年のマーベル・コミックス社の社を挙げての大型イベント『シークレット・ウォーズ』の第1号で、アース-616やアース-2149を含む、全ての多元宇宙は消滅した。──んでもって続くストーリーで、全能のパワーを獲得してたドクター・ドゥームによって宇宙は再生される。

 この、ドゥームによって再生された世界「バトルワールド」は、過去に存在した平行世界の残滓をパッチワークして再生された世界であり、そのパッチワーク世界の中には『マーベル・ゾンビーズ』世界の残滓が盛り込まれた世界も存在していた。

 で、『シークレット・ウォーズ』のタイイン・タイトルとして、それらの世界を舞台としたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ(vol. 2)』#1-4(8-10, 12/2015)と、『エイジ・オブ・ウルトロンvs.マーベル・ゾンビーズ』#1-4(8-11/2015)の2作が刊行された。



 こちらが『マーベル・ゾンビーズ』の単行本。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ(vol. 2)』全4号と、オリジナルの『マーベル・ゾンビーズ』#1を再録。

 ──バトルワールドの辺境、知性あるゾンビたちが闊歩する「デッドランズ」を舞台に、「シールド(デッドランズと他の世界との間に築かれた巨大な壁)」の警備を務めるヘル・レンジャーズの指揮官エルザ・ブラッドストーンが主人公。任務中に、デッドランズの奥深くに転送されてしまったエルザは、記憶を失った少女と共に、シールドを目指しつつ、ブラッドストーン家の縁者を狙う謎のゾンビとの因縁に決着をつける話。



 こちらは『エイジ・オブ・ウルトロンvs.マーベル・ゾンビーズ』の単行本。収録作品はシリーズ全4号と、『エイジ・オブ・ウルトロン』#1を再録。

 ──悪の人工知能ロード・ウルトロンによって支配される辺境の地「パーフェクション」は、長らく「デッドランズ」と不毛な対立を続けていた。だが突然に、ウルトロンとゾンビたちは手を組み、機械化されたゾンビ軍団がパーフェクション内に存在する人間たちの避難地、サルベーションへ侵攻を始めるのだった……。

 あらすじからも分かるように、両作とも従来の『マーベル・ゾンビーズ』とは全く関係のない話である。

 ついでに言えば、『シークレット・ウォーズ』以降、『マーベル・ゾンビーズ』シリーズの系譜を継ぐ物語は描かれることはなかった。


 次は、2018年秋に刊行されたワンショット、『マーベル・ゾンビ―』#1(12/2018)。

 ゾンビ渦によって人類が滅亡の縁に立つとある平行世界で、生き残りの少年が、ゾンビー(サイモン・ガース)との間にささやかな友情を育む短編。前述したように、従来の『マーベル・ゾンビーズ』とは関係のない世界の話である。



 こちらは単話版電子書籍。


 次は2019年に刊行されたワンショット、『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション』#1(12/2019)と、その続話である2020年始動の『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』。

 太陽系の縁でギャラクタスの遺体が発見され、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォー、X-MENの合同チームが調査に赴く。巨大な遺体の口内に入り、探索を行う一同の前に、知性あるゾンビの群が現われ、ヒーローらは1人また1人とゾンビと化していく……的なスペース・ゾンビ話。

 で、この話は、1年後に刊行されたリミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』全4号(11, 11, 12/2020, 1/2021)に続く。

 宇宙からのゾンビの襲来によって、文明が崩壊。辛うじて生き延びたスパイダーマン、フランクリン&ヴァレリア・リチャーズ(ミスター・ファンタスティックとインビジブルウーマンの長男長女)、それに猫のチューイらは、ゾンビ渦を止めるために、全ての元凶であるギャラクタスの遺体の元に向かう。しかし、生前の知性・記憶に加え、全ての個体間で意識を共有する「ハイブ・マインド」を持つゾンビたちは、スパイダーマンらの前に的確に立ち塞がり、生前の記憶で彼らを翻弄していく……。

 こう、やはり『マーベル・ゾンビーズ』シリーズとは異なる世界観の話ではあるけれど、本作に登場するゾンビ風の怪物「リスポーン」の起源がマーベル・ユニバースのとある宇宙種族だったり、ゾンビ渦に対抗するためにマーベル・ユニバースの様々なキャラクター、ガジェット、宇宙種族を習合させるという対抗の仕方が、オリジナルの『マーベル・ゾンビーズ』とは真逆のアプローチながら、「マーベル・ユニバースを舞台としたゾンビもの」としての1つのワンダーを提示しており、これはこれで快作であると思う(ただ、物語としては、ネタを出し切ってやり終えた感があるので、かつての『マーベル・ゾンビーズ』の様に続編が書き継がれることはないだろう)。



 こちらの電子書籍版単行本は、ワンショット版『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション』と、リミテッド・シリーズ『マーベル・ゾンビーズ:リザレクション(vol. 2)』全4号を収録。


 さてようやくラスト。『マーベル・ゾンビーズ:ブラック、ホワイト&ブラッド』全4号(予定)。

 ウルヴァリン、カーネイジ、エレクトラ、デッドプール、ムーンナイト(あとダース・ベイダー)といった、血の匂いのするヒーローらを主役に、人気作家が書いた短編を収録したアンソロジー・シリーズ『ブラック、ホワイト&ブラッド』シリーズの『マーベル・ゾンビーズ』版。タイトル通り本編のアートは、モノクロ+赤の2色印刷で統一されているのが特徴。

 なおこのシリーズは、日本では小学館集英社プロダクションから、『ウルヴァリン:ブラック、ホワイト&ブラッド』と『カーネイジ:ブラック、ホワイト&ブラッド』の2作が刊行されている。



 こちらの表紙を見れば、本シリーズのコンセプトがだいたい分かるだろう。こんな具合なアートの短編で構成された1冊。


 でー、この『マーベル・ゾンビーズ:ブラック、ホワイト&ブラッド』は、今年の10月発売予定で、内容はまだ不明。本稿を描いている辞典では、Amazonで1号のみ予約受付中。




 さて、長々と『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠したシリーズを紹介してきたが、これらの作品をそこそこの値段で揃えたい場合は、2019年に刊行された400ページ越えの単行本、『マーベル・ゾンビーズ:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻を購入するのが良いだろう。

 この単行本は、オリジナルの『アルティメット・ファンタスティック・フォー』以来、連綿と紡がれてきた『マーベル・ゾンビーズ』のメインシリーズを取りまとめたもの(なので、『マーベル・ゾンビーズ・クリスマス・キャロル』の様な、『マーベル・ゾンビーズ』のタイトルを冠しつつも、世界観の異なる作品は除外されている)。




 まずは『ザ・コンプリート・コレクション』第1巻。収録作品は、『アルティメット・ファンタスティック・フォー』#21-23、#30-32、『マーベル・ゾンビーズ』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ:デッド・デイズ』#1、『ブラックパンサー(vol. 4)』#28-30の、初期のシリーズと、カークマンのインタビューも掲載されている情報誌『マーベル・スポットライト:マーベル・ゾンビーズ/ミスティック・アルカナ』#1。




 続いて『ザ・コンプリート・コレクション』第2巻。収録作品は『マーベル・ゾンビーズ2』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ3』#1-4、『マーベル・ゾンビーズ4』#1-4、『マーベル・ゾンビーズ・リターン』#1-5、それに『マーベル・スポットライト:マーベル・ゾンビーズ・リターン』に掲載された記事の抜粋。.




 最終第3巻。収録作品は『マーベル・エイプス:プライム・エイト』#1、『マーベル・ゾンビーズ:エビル・エボリューション』#1、『マーベル・ゾンビーズ5』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』#1-5、『マーベル・ゾンビーズ・デストロイ!』#1-5、それに『マーベル・ゾンビーズ:ハロウィーン』#1。

 以上。疲れた。.
  
  
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2023/08/15(火)16:41
■the Ultimates: Homeland Security
■Writer: Mark Millar
■Penciler: Brian Hitch.
■翻訳:クリストファー・ハリソン
■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BK27S9XY


「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第21号は、マーク・ミラー&ブライアン・ヒッチによる『アルティメッツ』の第2巻目。

 収録作品は、『アルティメッツ』#7-13(第1シリーズ最終回まで)。

 前回の第1巻のエントリで、『アルティメッツ』のシリーズの流れについては一通り解説したので、本エントリでは特に語ることはない。

 しょうがないので、本作の主要登場人物であるアイアンマンことトニー・スタークの設定の変遷について、解説でもしたく思う(まあ、筆者の趣味だ)。


 さて、アルティメット・ユニバース版のアイアンマン(トニー・スターク)は、『アルティメット・チームアップ』#4-5(7-8/2001)で初登場した。同誌は、「スパイダーマンとアルティメット・ユニバースのヒーローが共闘する」というコンセプトの雑誌で、作中でゲストのヒーローのオリジンも語ることで、生まれたてのアルティメット・ユニバースの世界観を拡張する狙いもあった(ライターは、『アルティメット・スパイダーマン』と同じく、ブライアン・マイケル・ベンディスが担当)。

 で、この#4-5は、クラシカルな画風で知られるマイク・オールレッドがゲスト・アーティストとして参加したこともあって、作中に登場するアイアンマンは、シルバーエイジ期のアイアンマン・アーマー・モデル3をモチーフとしたスーツで描かれていた(アルティメット・ユニバース版の新アイアンマンのデザインとしては、少々保守的な感は否めない)。

 で、同号で語られた、アルティメット・ユニバース版アイアンマンのオリジンは、大よそ以下のような具合であった。

・トニー・スタークは「全てのアメリカの家庭が、その製品の恩恵を受けている」と称される世界的大企業スターク・インダストリーズを一代で立ち上げた人物で、同社のチェアマン兼、主任科学者を務める(なお、オリジナルのトニー・スタークは、父ハワード・スタークからスターク・インダストリーズ社を継いでいる)。

・母親のマリアは普通の教師。父親の素性は言及なし(本話の時点では、名前がハワードかも不明)。トニーは幼い頃から頭脳が優れ、クイズ番組で賞金を稼いでちょっとした資産を築いていた。

・長じたトニーはハーバード大学に進学。同大学の学生であったリード・リチャーズとも知己になる。在学中には初期のアイアン・テック・アーマー用のプログラミング言語を開発。しかし3年時に大学を辞め、スターク・インダストリーズを起業する。

・いつ頃からかは不明だが、トニーは致命的な脳腫瘍を発症。生化学の技術を盛り込んだアーマーを開発し、それを定期的に装備することで、延命を行っていく。

・本編の10年前、従弟であり共同経営者のモーガン・スタークと共にグアテマラを訪れたトニーは現地のテロリスト「レッド・デビル」の人質にされる(休暇でグアテマラに来た彼を、「独裁政府に武器を売りに来た」と勘違いして拉致)。8ヶ月間に渡る抑留生活の合間にモーガンが殺され、トニー自身もアーマーによる延命措置が不能となっていたため死に瀕する。

・意を決したトニーは、レッド・デビルに協力すると見せかけ、彼らの機材・施設を用いて、試作型のリパルサー・レイを開発。それを用いてレッド・デビルを倒し、他の人質と共に脱出する。

・解放後、思うところのあったトニーは、2年ほど表舞台から姿を消す。その間にリパルサー、ユニビーム他の武器を組み込んだアイアンマン・アーマ―を開発。正体を公表した上で、ヒーロー・アイアンマンとして活動を開始する(なおデビュー当初から、モデル3系の赤と金のアーマーを着用)。……つまり、アルティメット・ユニバース版アイアンマンは、スパイダーマンがデビューする約7年と4ヶ月も前からヒーロー活動を行っている大ベテランということになる。

・以降、アイアンマンは副大統領の暗殺を防ぐなどの活躍を見せる一方で、会社のマスコットとしても露出していき、彼をモチーフとしたマーチャンダイジングも大成功する。更には近年、アイアンマンをモデルにした映画『I. M. 1』(トム・クルーズ主演、ジーン・ハックマン出演)がヒットしたことで、その名声は伝説的なものとなる。

 ……と、言った具合。オリジナルの「ベトナム戦争で現地のゲリラに拉致され、アイアンマン・アーマーを開発して脱出」というオリジンを、グアテマラの反政府ゲリラに置き換えて語り直したものだが、アイアンマン・アーマーを開発する代わりに、リパルサー・レイを内蔵したガントレットを開発と、リアリティを盛り込もうとして、少々スケールが小さくなっている感はある。また、「ゲリラの地雷の爆発に巻き込まれ、心臓近くに金属の破片が食い込んだため、電磁石を内蔵した胸部アーマー(アイアンマンの装甲も兼ねる)を身に着けることになった」という、アイアンマンの誕生と密接に関連していたトニー自身の抱える弱点は、アルティメット・ユニバース版では「ゲリラに拉致される以前から致命的な脳腫瘍を患っており、その治療のために生化学技術を組み込んだアーマーを開発した」というものになり、ゲリラとは関係のないものになっていた。

 ちなみに、『アルティメット・マーベル・チームアップ』誌は、2001~2002年にかけて全16号が刊行され、全3巻の単行本が刊行されたのだが、この単行本なぜか『アルティメット・マーベル・チームアップ』#6-8の3話が未収録という、なかなか困った仕様で(それらは同時期に出たハードカバー単行本のみに収録された)、その中途半端な仕様が祟ってか、電子書籍にもなっていない。


 これが『アルティメット・マーベル・チームアップ』単行本の1巻目。『アルティメット・マーベル・チームアップ』#1-5を収録。ちなみにリンク先のページの「Kindle版(電子書籍)」のボタンを押すと、『アルティメット・マーベル・チームアップ』の電子版単行本のページではなく、『アルティメット・マーベル・チームアップ』の単話販売のページに飛ばされるので注意。




 幸い、2006年に『アルティメット・マーベル・チームアップ』の全話を1冊にまとめた厚い単行本『アルティメット・マーベル・チームアップ アルティメット・コレクション』が刊行され、電子書籍化もされている。収録作品は『アルティメット・マーベル・チームアップ』#1-16と、特別号『アルティメット・スパイダーマン・スーパースペシャル』#1。




 まあ、Kindleでは、『アルティメット・マーベル・チームアップ』の単話ずつの発売もしているので、アルティメット・アイアンマンの話を読みたければ、単話版の#4-5だけ買えば済む話ではある(ミもフタもない)。

 閑話休題。


 その後、アイアンマン/トニー・スタークは、『アルティメット・スパイダーマン』#16(2/2002)に再登場した……と言っても、作中でピーター・パーカー/スパイダーマンが眺めていたデイリー・ビューグル新聞社のモニターに、1コマ移っていただけだが。



 一応、単話版『アルティメット・スパイダーマン』#16へのリンク。アルティメット・アイアンマンの出演イシューの完全フォローを目論む方に(滅多にいないのでは)。

 そしてその翌月、『アルティメッツ』誌が創刊され(創刊号カバーデート:3/2002)、同作の主要登場人物の一人としてトニー・スターク/アイアンマンが登場する。彼は『アルティメット・マーベル・チームアップ』の設定を引き継ぎつつも、物語の進行と共にその設定はいくらか発展を遂げていく。

 具体的には、以下のような具合の変化をしている。

・『アルティメッツ』#2で初登場した、本作版のアイアンマン・アーマー(アイアン・テック・アーマーとも)は、ブライアン・ヒッチが1からデザインした、アルティメット・ユニバース独自のデザインになった。具体的には、ヘルメットのデザインが独特のものとなり、全体のプロポーションも、胴体が膨らんでいたり、脚部が大型化している(推進機が内蔵されているのだろう)など、素直な人間的な体型を外したものとなった。またアーマーの色はグレーをベースに、上半身の一部に赤の差し色が加わり、フェイス部が金色という配色となる(なお作中では、スターク社に陳列されている「旧式アイアンマン・アーマー」として、『チームアップ』版のアーマーが1コマ描かれた)。

・また、アイアンマン・アーマーの運用・維持には、それなりに大掛かりな施設と、相応のスタッフが関わっていることが描写された(『チームアップ』では、出先でトニーが手軽にアーマーを装着していたので、技術的には退化しているようにも見える)。またアーマー内に(衝撃緩衝用と思しき)緑色のゲルが充填されているなどのディテールも挿入される。

・トニーの飲酒シーンがたびたび挿入され、彼が(オリジナルのトニーのように)飲酒により将来的にトラブルを招くであろうことが、ほのめかされた。

・トニーの「脳腫瘍」の設定は継承され、彼の余命は「半年から5年」であることが判明する。彼がアルティメッツに参加し、シールドを通じてアイアン・テックの一部を解放し、つねに酒に溺れているのは、自身の寿命が長くないことを受けてのもの……という、本作のトニーの行動の動機として説明される。

 以上。大体にして、アイアンマンの設定をリアルに(現代的に)するため、運用面のディテールを足しつつ、トニーのドラマを動かすために脳腫瘍の設定を強調した感じの補完になる。──ただ、その後の『アルティメッツ』の物語で、トニーの脳腫瘍の話は放置された。……ていうか10年後の『アルティメット・コミックス:アルティメイツ』の作中で、「実は脳腫瘍は、トニーとは別の自我を持つ生命体だった! なおトニーの寿命には特に影響してなかった!」なんてぇ設定が唐突に開陳されたりした。


 さてその後、『アルティメッツ』は2004年に刊行された#13(4/2004)でひとまず完結し、同年末から、新シリーズ『アルティメッツⅡ』が始動する(創刊号カバーデート:2/2005)。

 で、これに合わせて、2005年初春から、アルティメット・ユニバース版アイアンマンのオリジンを描いたリミテッド・シリーズ『アルティメット・アイアンマン』#1-5(5, 7, 9, 11/2005, 2/2006)が刊行された。

 同作のライターを務めたSF作家のオースン・スコット・カードは、アイアンマンの物語を大胆に(時には大胆過ぎるほどに)換骨奪胎し、オリジナリティに溢れつつ、アルティメット・ユニバースの世界観にもいくらか合致したオリジンを生み出して見せた。

 というか、この新オリジンは、カードの意欲が溢れすぎた結果、『アルティメット・マーベル・チームアップ』版のものとは全く異なるものとなった。

 具体的には、

・トニーの本名はオリジナルの「アンソニー(トニー)・スターク」から、「アントニオ(トニー)・スターク」になった。作中では彼の母、マリア・スタークの弟(若くして死んだ)の名を継いだと言及される。

・トニーがスターク・インダストリーズを立ち上げた、という従来の設定はなかったことになり、オリジナル同様にトニーの父ハワード・スタークが、スターク・インダストリーズ社の先代の経営者となった。

・またトニーの母親マリアは教師ではなく、優秀な遺伝子学者となった。さらにはハワードには、マリアの前にロニという女性と結婚していたという設定も加わる。

・このロニ・スタークは、有り体に言えば悪女であり、ハワードが「バイオテック・アーマー(後述)」の研究に没頭して会社の経営を傾かせているのを見て取るや、スタークと離婚し、さらにスターク・インダストリーズのライバルであるスターン・コーポレーションの経営者ゼベディア・スターンと手を組み、スターク・インダストリーズを買収してしまう(『アルティメット・アイアンマン』の物語の序盤は、ハワードの発明したバイオテック・アーマーを狙うゼベディアが、ハワードとその息子トニーの生命を陰湿に狙う企業もののサスペンスの側面も持つ)。

・トニー・スタークは、母マリアが、妊娠中にとあるウィルス(生物の全身の細胞に、胚細胞並みの再生力を持たせるもの)に感染した影響で、生まれついての超人という設定になった。

・具体的には、トニーの全身には、未分化の神経細胞が張り巡らされ、全細胞を脳細胞として活用できる。結果、彼は生まれついての大天才となった。また、彼の全身の細胞は、非常な速度で再生する(四肢を欠損しても、数日で再生できる)。

・ただしその肉体は、神経がむき出しになっているのも同然で、外気に触れるだけで全身が重度の火傷並みの痛みを受ける。

・息子のこの状況を改善すべく、ハワード・スタークは、開発中のバイオテック・アーマーでトニーの全身を覆う。このアーマーの正体は、特殊な能力を持つバクテリアで、外気からトニーを隔離してくれる上、バットで殴る・アイスピックで突くなどの、そこそこの暴力から完全に着用者を守る機能を持つ。反面、バクテリアは3時間で着用者の皮膚を食らうという弱点を持っていたが、これはトニーの驚異的な再生能力によって相殺された。

・2004年創刊の『アルティメット・ファンタスティック・フォー』の設定が取り入れられ、少年~青年時代のトニーは天才少年を集める政府のシンクタンク「バクスター・ビルディング」に所属し、自身の科学的才能を発揮していく。

・彼がまとうアイアンマン・アーマーは、少年時代~青年期にかけてトニーが段階的に開発していったもの。トニーの学生時代の友人ジム・ローズとそのガールフレンドのニファーラもバクスター・ビルディングに所属し、トニーと平行して「ウォーマシン・アーマー」を開発していた。

・作中のアイアンマン・アーマーは、アメフトのプロテクターに回路を取り付けたもの、ロボットと間違えられるほどの大きさの試作モデルなどを経て、おなじみのアイアンマン・アーマーに近いものに進化していく。ちなみに「テロリストにさらわれて、アイアンマン・アーマーを開発」といったおなじみのオリジン要素は本バージョンには存在しない(逆に、アメリカ政府の要請で、アイアンマン・アーマーを着用して中東のテロ組織のアジトに乗り込み、組織を壊滅させている)。

・後々にトニーは、バクテリアに加えてナノマシンを体内に持つようになり、手の届く距離のメカの分析・ハッキングなどをさせられるようになる。

・これまでのアルティメット版アイアンマンのオリジンに係る「脳腫瘍」の要素は作中では一切言及されない。

 以上。

 その、スキンタイトなパワードスーツを着用した、アイアンマンという、少々リアルさを追求しづらいヒーローに説得力を与えるために、

・トニーは普段からバイオテック・アーマーを着用しているので、軽度のダメージは無効化できる。

・その上、トニーは四肢の欠損程度は簡単に再生できる。

 という設定を導入し、むしろトニーの肉体の方を強化することで、パワードスーツ・ヒーロー、アイアンマンを成立させてる感じと言おうか。SF作家らしい発想ではある。



 オースン・スコット・カードによる『アルティメット・アイアンマン』は、第1作『アルティメット・アイアンマン』#1-5(5-6, 9, 11/2005, 2/2006)と、その2年後に描かれた第2弾『アルティメット・アイアンマンⅡ』#1-5(2-5, 7/2008)の全10話分が刊行された。

 上の『アルティメット・コミックス・アイアンマン:アルティメイト・コレクション』は、その全話を収録した分厚い単行本になる。


 さて、オースン・スコット・カードというビッグネームを招いて、アルティメット・ユニバース版のアイアンマンのオリジンを非常に革新的に設定してもらった訳だが、あまりに突拍子もない新オリジンだったためか、この当時、『アルティメッツ3』や『アルティメイタム』、『ニューアルティメッツ』などのアイアンマンが登場するシリーズを担当していたジェフ・ローブや、アイアンマンが単独で主役を務める2009年の『アルティメット・アーマー・ウォーズ』を書いたウォーレン・エリスは、カード版の設定は触れずに、「自罰的でアルコールにおぼれ、女たらしで、手術不可能の脳腫瘍を持ってるセレブ」という、カード以前の『アルティメッツ』作中で描かれていたアルティメット・アイアンマンのキャラクター像を踏襲して物語を展開していく(「全身が脳細胞」かつ「異様に新陳代謝が速い」トニーが、深酒におぼれたらどんな具合になるのかとか、常にバクテリア・アーマーを着たトニーのセックスライフはいかなるものかなど、カード版の設定も掘り下げようで面白い話ができたと思うが)。

 また、同時期の『アルティメット・アベンジャーズ』誌には、カード版『アルティメット・アイアンマン』に登場したものとは明らかに設定の異なるウォーマシン・アーマーも登場している。



 上は、『ウルティメイト・アーマー・ウォーズ』#1-4(11-12/2009, 1, 4/2010)を収録した、『アルティメット・コミックス:アーマーウォーズ』。『アルティメッツ』作中で登場した、おなじみのアルティメット版アイアンマン・アーマーは、本作のラストで大破。その後創刊された『ニュー・アルティメッツ』では、本家マーベル・ユニバース版に近いデザインのアイアンマン・アーマーに着替えている。

 オリジナルのマーベル・ユニバースとは一味違うデザイン・設定を意欲的に取り入れていったアルティメット・アイアンマンが、革新的なデザインから、保守的な、「皆さんおなじみの」アイアンマン・アーマーに戻り、革新的な設定もやんわり無視されて、「皆さんおなじみのトニー・スターク」像に戻っているのが、まあ、残念な話ではある。

 その後、2011年に創刊されたリミテッド・シリーズ『アルティメット・アベンジャーズvs.ニュー・アルティメッツ』の#2(5/2011)の作中に、カードの『アルティメット・アイアンマン』準拠のデザインのアイアンマンが、「アルティメット・ユニバースで放送されているアニメ『アルティメット・アイアンマン』のキャラクター」として登場し、「オースン・スコット・カード版のアイアンマンは、アルティメット・ユニバースで放送されているフィクションの登場人物である」ということにされた。ヒドい話だ。

 で、最終的に2012年に刊行されたリミテッド・シリーズ『アルティメット・コミックス:アイアンマン』#1-4(12/2019-3/2013)で、新たなトニー・スタークの若き頃の姿(スターク・インダストリーズの後継者となることを拒み、ガールフレンドのジョーシー・ガードナーと共にJTテクノロジーズを創設するが……)が描かれ、『アルティメット・マーベル・チームアップ』版のオリジンも、カード版のオリジンもすべて「なかったこと」にされた。合掌。



 こちらが『アルティメット・コミックス:アイアンマン』の単行本。全4話を収録。


 でー、その後、2015年の大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズ』の作中で、アルティメット・ユニバースことアース-1610は滅亡し、アルティメット・アイアンマンも故郷と共に死亡する。

 更にその後、2017年の『アルティメッツ2(vol.2)』#9(9/2017)と続く#100(10/2017、景気づけに今までのナンバリングを統合して通関100号とした)で、悪人メイカーの干渉により、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルクら旧アルティメッツが復活を遂げた。作中で彼らは、メイカーに反抗し、キャプテン・マーベル(キャロル・ダンバース)率いる、アース-616のアルティメッツと共闘。物語のラストでは、アルティメッツの面々(キャプテン・アメリカのみ、また死んだ)は、逃亡したメイカーを追い、宇宙船で次元の彼方へと旅立つ。



 こちらがそのエピソードを収録した『アルティメッツ2:エターニティ・ウォー』。表紙をよくよく見れば分かるが、作中に登場するアイアンマンは、旧来のレッド&グレーのアルティメット・アイアンマン・スーツを装着している(アルティメット・ユニバースのアイアンマンだと、分かりやすくするためだろう)。


 ちなみにこの『アルティメッツ2(vol.2)』の話は、前シリーズ『アルティメッツ(vol.3)』から、ライターのアル・ユーイングが連綿と続いていた壮大なコズミック・サーガの総決算的な話で、これ単体で読んでも割とワケは分からない。



 ユーイングの『アルティメッツ』は、上の『アルティメッツ・バイ・アル・ユーイング:ザ・コンプリート・コレクション』に全話が収録されているので、まあ、興味のある方はこちらを買うのもいいだろう。収録内容は『アルティメッツ(vol.3)』#1-12、『アルティメッツ2(vol.2)』#1-9, 100、それと『アベンジャーズ(vol.6)』#0に掲載された短編(メイカーが登場)。

 以上、「消え去った設定」について延々と話して虚しくなったので、今日はここまで。
  
  
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2023/07/06(木)18:00
■Black Panther: Who is the Black Panther?
■Writer:Reginald Hudlin
■Penciler:John Romita Jr.
■翻訳・監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BHMZTQ7J



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第20号は、アフリカ系アメリカ人の映画監督レジナルド・ハドリンをライターに迎えて2005年に創刊された『ブラックパンサー(vol.4)』の最初のストーリーライン「フー・イズ・ザ・ブラックパンサー?」を単行本化。

ブラックパンサーとは何者なのか? 何世紀にもわたり、アフリカの高度先進国ワカンダ王国は、気高い戦士であり王である歴代のブラックパンサーによって守られてきた。そして今、現国王ティ・チャラは、ワカンダの貴重な資源を奪おうとする外敵から国を守るため、彼らとの戦いに挑む。(第20号表4あらすじより抜粋)

 収録作品は、『ブラックパンサー(vol.4)』#1-6。

 なお、マーベルから刊行された『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』の単行本は、最初に出たハードカバー版単行本(2005年刊)およびそのソフトカバー版(2006年刊)が、『ブラックパンサー(vol.4)』#1-6を収録しており、おそらく本書はこの単行本を底本としているのだろう。


 これが最初のハードカバー版。まあ、今買う意味はない。


 こっちが、上記旧版のKindle版。表紙も、収録内容も同じ。


 で、その後2009年に刊行された新装版単行本(表紙も新しくなった)は、上記の『ブラックパンサー(vol.4)』#1-6に加えて、ブラックパンサーの初登場号である『ファンタスティック・フォー』#52-53(7-8/1966)も追加で収録された。


 こちらがその新装版単行本(表紙が新しくなった)。実はこちらは電子書籍版はない。


 代わりに、2021年に「マーベル・セレクト」レーベルで刊行された、『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー マーベル・セレクト』の電子書籍版が、新装版単行本と同じ内容なので(表紙は元に戻ったが)、『ファンタスティック・フォー』#52-53も読んでおきたいという方は、こちらを。


 ちなみに日本では、2016年に小学館集英社プロダクションから(映画『ブラックパンサー』の公開合わせで)、新装版『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』の単行本を底本にした邦訳版『ブラックパンサー:暁の黒豹』が刊行されている。


 収録作品は底本と同じく『ブラックパンサー(vol.4)』#1-6と『ファンタスティック・フォー』#52-53(ちなみに表紙は、新装版のものではなく、とエサッド・リビッチによる、『ブラックパンサー(vol.4)』#1のヴァリアント・カバーのアートを採用)。紙の単行本は在庫切れだが、幸い電子書籍化もされているので、こちらを購入するのも良いだろう。



 なお、マーベルからは、同タイトルの「小説」も出ているので、安いからと言って間違って買わないように注意。


 話を戻すが、本作のライター、レジナルド・ハドリンは、本業が映画監督ながら、結構ガチでこの『ブラック・パンサー』のオンゴーイング・シリーズに取り組んでおり、その連載は、2005年から2009年まで、実に4年間にも及んだ。

 で、この時期の『ブラックパンサー』誌は、『ハウス・オブ・M』、『シビル・ウォー』、『シークレット・インベージョン』などの大型イベントともタイインしつつ、ブラックパンサーとストームの結婚や、ブラックパンサーのファンタスティック・フォー加入、更には当時人気の『マーベル・ゾンビーズ』とのリンク等々、盛り沢山の内容になっているので、シリーズを通しで読むのも一興だろう。

 てなわけで、以降、『ブラックパンサー(vol.4)』の単行本を紹介していく。


 さて、『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』に続く『ブラックパンサー(vol.4)』#7(10/2005)だが、いきなり当時のマーベルの大型イベント『ハウス・オブ・M』とタイインし、平行世界アース-58163(ハウス・オブ・M世界)を舞台にした番外編が掲載される。

 物語は、ハウス・オブ・M世界でミュータントの王マグニートーの承認の元、各地の支配者となったブラックパンサー、ネイモア、ブラックボルト、ストームら「カウンシル・オブ・キングス」の活躍を描いた読み切りで、「ブラックパンサーがストームに気があった」ということが、元の世界に先駆けて言及されている。


 で、この話は、『ブラックパンサー』の単行本ではなく、上の『ハウス・オブ・M』の短編集、『ハウス・オブ・M:ワールド・オブ・M フューチャリング・ウルヴァリン』に収録されている。


 で、続く『ブラックパンサー』#8-9は、『X-MEN(vol.2)』誌とクロスオーバーしており、これは単行本『X-MEN/ブラックパンサー:ワイルド・キングダム』に収録。


 収録作品は『X-MEN(vol.2)』誌の#175-176(11-12/2005)と、『ブラックパンサー(vol.4)』8-9(11-12/2005)。

 ワカンダの隣国のニガンダ(『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』にも登場)で、ワニやライオンのミュータントが目撃されたことから、調査のためにストーム、ウルヴァリンらX-MENが出動。現地にてブラックパンサーと遭遇したX-MENは、ニガンダ政府に雇われた医師エリック・ペインが、人為的にミュータント動物を作り出していることを知らされる……といった話(で、共闘の合間に、青年時代にストームに恋心を抱いていたブラックパンサーが、彼女とよりを戻そうとしていく)。



 それに続く話が、『ブラックパンサー:バッド・ムータ』で、『ブラックパンサー(vol.4)』#10-13(1-4/2006)を収録。

 ニガンダへの処置などを国連の議場で表明するために、ニューヨークにやってきたブラックパンサー。偶然出会ったルーク・ケイジ(デビュー前のギャング時代に、ブラックパンサーに強い敬意を抱いていた、という設定が本作で登場)を雇ったパンサーは、当時ルイジアナを襲ったハリケーンの災害救助のためにニューオーリンズに赴く一方、謎の忍者軍団に襲われたり、吸血鬼との戦いに巻き込まれていく……的な話で、ファルコン、ブレイド、ブラザー・ブゥードゥー、モニカ・ランボーといった黒人キャラクターや、シャン・チーがゲスト出演。



 続いては、『ブラックパンサー(vol.4)』#14-18(5-9/2006)を収録した『ブラックパンサー:ザ・ブライド』。#14でブラックパンサーがストームに求婚し、ストームが割とアッサリ了承。以降、国民へのお披露目、母親との対面、記者会見、バチェラー・パーティー等々を経ての結婚式を、5話をかけて丁寧に描く。なお、#18は、当時のイベント『シビル・ウォー』とタイインしており、ブラックパンサーが、「超人登録法」を巡って対立しているアイアンマンとキャプテン・アメリカを結婚式に招き、仲直りを画策するも、2人も怒って帰る……というシーンが挿入されている。



 で、続く単行本『シビル・ウォー:ブラックパンサー』は、『ブラックパンサー(vol.4)』#19-18(10/2006-4/2007)を収録。

 新婚旅行で世界各国を巡ることにしたブラックパンサーとストーム。まずは結婚式に呼ばれずに拗ねてるドクター・ドゥーム(まあ、直前までドゥームは『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』での騒動の結果、地獄に封じられてたので、招待しようがなかったのだが)の統治するラトヴェリアに赴くも、ワカンダに一方的な要求を突き付けてくるドゥームとケンカ別れ、その後も行く先々(インヒューマンズの月面都市や、ネイモアの統治する海底王国アトランティス)で騒動に巻き込まれていく……という前半(#19-21)と、アメリカに立ち寄った2人が、本格的に「シビル・ウォー」事件に巻き込まれ、アイアンマンと対立、なし崩しにキャプテン・アメリカ側に味方するが……という後半部(#22-25)で構成される。

 ちなみに本作は、ヴィレッジブックスから『ブラックパンサー:シビル・ウォー』として邦訳版が発売されていたが、同社が出版事業から撤退した現在、入手は困難になっている。



 次は、『ブラックパンサー:フォー・ザ・ハードウェイ』。『ブラックパンサー(vol.4)』#26-30(5-10/2007)を収録。

「シビル・ウォー」事件の後、ファンタスティック・フォーのリード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック)とスー・リチャーズ(インビジブルウーマン)夫妻が同チームをしばらく離れることになる。そしてリード&スーの要望を容れたブラックパンサーとストームは、チームに残ったヒューマントーチ、シングと共に新生ファンタスティック・フォーを結成する。

 で、『ファンタスティック・フォー』#544-546(5-7/2007)で、宇宙の深淵でのギャラクタス絡みの任務を終えた新ファンタスティック・フォーは、本書の冒頭で、拠点であるバクスター・ビルディング(今やワカンダ大使館も兼ねる)に戻るが、直後、異世界ネガティブゾーン(「シビル・ウォー」において、反体制派のヒーローらが収監される刑務所が置かれている)から到来した昆虫人間(無闇にタフ)を放逐するために、先の事件の解決のために用いた「ソロモン王のカエル(ジャック・カービー期の『ブラックパンサー(vol.1)』で初登場した時空間移動装置)」を起動し、他の並行世界に移動する……が、たどり着いた先は、ヒーローらがゾンビと化した世界だった! という具合に、『マーベル・ゾンビーズ』とタイインしていく。

 ちなみに、ヴィレッジブックスから刊行されていた邦訳『マーベルゾンビーズ:デッド・デイズ』には、『ブラックパンサー(vol.4)』#28-30が収録されていた(無論、現在では入手困難)。


 ついでに、新生ファンタスティック・フォーの最初の冒険を描いた『ファンタスティック・フォー』#544-546は、こちらの『ファンタスティック・フォー:ザ・ニュー・ファンタスティック・フォー』に収録。この間紹介した、J・マイケル・ストラジンスキー期の『ファンタスティック・フォー』が終了して、新ライターのドウェイン・マクダフィーに交代した時期にあたる。



 続く話が、『ブラックパンサー:リトル・グリーン』。こちらは『ブラックパンサー(vol.4)』#31-34(12/2007-3/2008)を収録。引き続き気まぐれな「ソロモン王のカエル」の時空転移に巻き込まれた新生ファンタスティック・フォーは、1969年の『ファンタスティック・フォー』誌で初登場した惑星クラルIVに転送され、「ネタバレになるので登場人物の名前も挙げられないが、よくこんな突拍子もないバカ話を思いついたな、レジナルド・ハドリン」としか言いようのない冒険を繰り広げる。



 で、次は『ブラックパンサー:バック・トゥ・アフリカ』。増刊号『ブラックパンサー(vol.4) アニュアル』#1(4/2008)と、『ブラックパンサー(vol.4)』#35-38(5-9/2008)を収録。『アニュアル』は、一連の「ソロモン王のカエル」の話のエピローグで、カエルが見た可能性の未来の話。『ブラックパンサー』#35-38は、長いこと不在にしていたワカンダに帰還したブラックパンサーが、ニガンダを掌握した仇敵エリック・キルモンガーと対決する。シリーズ初期に提示されてた伏線が収束する、『ブラックパンサー(vol.4)』の完結編的なエピソード。



 で、続く単行本『シークレット・インベージョン:ブラックパンサー』に収録されている、『ブラックパンサー(vol.4)』#39-41(9-11/2008)をもって、『ブラックパンサー(vol.4)』は完結する。

 こちらは、当時のマーベルの大型クロスオーバー『シークレット・インベージョン』とタイインしており、地球侵略を開始したスクラル人の軍団が、ワカンダ王国にも攻め込んでくる話。なお、本作はハドリンではなく、ゲスト・ライターのジェイソン・アーロンが手掛けているのだが、これだけ外すのもなんなので、一緒に紹介する。



 その後、レジナルド・ハドリンは、新規に創刊された『ブラックパンサー(vol.5)』の最初のエピソード、「デッドライエスト・オブ・ザ・スピーシーズ」を手掛た後、『ブラックパンサー』誌のライターを降りた。上の単行本には、『ブラックパンサー(vol.5)』#1-6(4-9/2009)を収録。

 内容的には、『ブラックパンサー(vol.4)』での一件で、ブラックパンサーに勝手に敵意を抱くに至ったドクター・ドゥームの謀略によりブラックパンサー(ティチャラ)が重傷を負い、ワカンダ国内が混乱に陥る中、『アメイジング・スパイダーマン:カミング・ホーム』にも登場したモールンが突如ワカンダに顕現。混沌とする状況下で、ティチャラの妹のシュリ(『ブラックパンサー:フー・イズ・ザ・ブラックパンサー』で初登場)が、新ブラックパンサーとなって故国を守るべく奮戦する……という話で、「シュリのブラックパンサー襲名」と「ドクター・ドゥームとの対決」という、以降の『ブラックパンサー(vol.5)』誌のストーリーの柱となるエピソードが提示されている。



 なお同書は小学館集英社プロダクションから、2022年に『ブラックパンサー:黒豹を継ぐ者』として邦訳が刊行されている(こちらは映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』合わせでの刊行)。



 またハドリンは、2010年にリミテッド・シリーズ『ブラックパンサー/キャプテン・アメリカ:フラッグズ・オブ・アワ・ファーザーズ』全4号(6-9/2010)も手掛けている。

 こちらは、第2次世界大戦当時、ワカンダを訪れたキャプテン・アメリカとならず者部隊ハウリング・コマンドーズが、当時のブラックパンサーと共闘するという内容で、コマンドーズ所属の黒人兵士ゲイブ・ジョーンズとブラックパンサーとの友情も描かれる。

 ちなみに本作は、元々はクリストファー・プリーストが『ブラックパンサー(vol.3)』の中で描いた、「第2次大戦当時にキャプテン・アメリカとブラックパンサーが共闘していた」エピソードを膨らませたもので、オリジナルの話ではティチャカ(ティチャラの父親)がキャプテン・アメリカと共闘していた。しかし、さすがに2010年に刊行される作品で、ティチャカが大戦当時に成人していたのは無理があるため、本書ではティチャカの父親のアズーリ王がキャプテンと共闘している。


 と、長々とレジナルド・ハドリン期の『ブラックパンサー』誌の単行本を紹介してきたが、ブッチャけた話、ハドリン期の『ブラックパンサー』は、現在では単行本『ブラックパンサー・バイ・レジナルド・ハドリン:ザ・コンプリート・コレクション』全3巻にまとめられているので、そちらを買うのがベターだろう。


 こちらが第1巻。『ブラックパンサー(vol.4)』#1-18と、同作とクロスオーバーしている『X-メン』#175-176を収録。
.

 で、第2巻。『ブラックパンサー(vol.4)』#19-34と、アニュアル#1を収録。


 第3巻。『ブラックパンサー(vol.4)』#35-41に加え、ハドリンが担当した『ブラックパンサー(vol.5)』#1-6と、『ブラックパンサー/キャプテン・アメリカ:フラッグス・オブ・アワ・ファーザーズ』#1-4も収録しており、スキがない。

 以上。久々に長文を書いて疲れたので、今回はここまで。
  
  
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2023/03/27(月)19:00
■Avengers Forever (Part 2)
■Writer:Kurt Busiek with Roger Stern
■Penciler:Carlos Pacheco
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BFTWP94N



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第19号は、1998~1999年にかけてカート・ビュシーク&ロジャー・スターン(ライター)、カルロス・パチェコ(ペンシラー)らが送り出した全12号のリミテッド・シリーズ『アベンジャーズ・フォーエバー』の後半部(#7-12まで)を単行本化(前半部は「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第12号として刊行)。

 アベンジャーズの時空を超えた壮大な戦いは続く! イモータスの本拠地であるリンボを訪れたアベンジャーズたちは、イモータスの行動の裏に隠された恐ろしい真実を知ることになる。人類の未来を守るため、アベンジャーズはイモータスを倒し、不可能と思われた戦いに挑んでいく。(第19号表4あらすじより抜粋)

 ……さて、前回のエントリで、本作の成り立ちの経緯や、主要キャラクターの状況について語ってしまったので、本エントリではあらためてなにか語ることはない。

 本作のヴィランであるカーンとイモータスの因縁についてでも語ろうかとも思ったが、今年公開された映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』にヴィランとしてカーンが登場したおかげで、既にカーンのオリジンに関するnote記事も、余所で書かれているので、こちらから強いて付け加えることもない。

 なので、本作のラストで誕生した、新キャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)について、解説する。ぶっちゃけ、筆者の趣味である。

 前回のエントリでも説明したが、キャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)は、1993年の『シルバーサーファー』アニュアル#6(8/1993)で初登場したキャラクターで、当初は「レガシー」なるコードネームを名乗っていた。

 レガシーは、キャプテン・マーベル(マー=ヴェル)の恋人であったエリシウスが、マー=ヴェルの遺伝子を基に超科学技術を用いて創り出した「息子」であり、初登場後、『シルバーサーファー』誌やその関連誌にコンスタントに登場した後、1995年には個人誌『キャプテン・マーベル(vol.3)』も獲得する(ライターは、この当時『X-MEN』系のタイトルで頭角を現していたファビアン・ニシーザ)。

 この『キャプテン・マーベル(vol.3)』の4号目(3/1996)で、ジェニス=ヴェルは正式に父親のコードネームを受け継ぐこととし、「キャプテン・マーベル」を名乗る……が、残念ながらその2号後の#6(5/1996)で、『キャプテン・マーベル』誌は打ち切られてしまう。

 ちなみに、『キャプテン・マーベル(vol.3)』誌の方は電子化されてないが、『シルバーサーファー(vol.3)』誌の方は、いくらか電子化されており、レガシーの初登場話であるアニュアル #6も単話で電子版を購入できる。


 ちなみにレガシーは、『シルバーサーファー(vol.3)』本誌には、#89-90、#105-110とアニュアル#7に再登場しているのだが、Kindle版『シルバーサーファー(vol.3)』は、図ったように#89~122までのイシューは登録されていないし、アニュアルも#7だけ抜けている。何故だ。



 ……しょうがないので同時期のコミックで、レガシーがゲスト出演する話を収録した『サノス:コズミック・パワーズ』の単行本のリンクなどを張る。収録内容は『シークレット・ディフェンダーズ』#12-14(2-4/1994、#14のラストでレガシーがシルバーサーファーのオマケでちょっとだけ登場)と、リミテッド・シリーズ『コズミック・パワーズ』#1-6(3-8/1994)。

『コズミック・パワーズ』は、強敵タイラントへの挑戦を目論むサノスが、テラックスと共闘し行動を開始。サノスに恋人ガニメデを拉致されたジャック・オブ・ハーツはレガシーと共闘し、サノスの元へ向かうが、最終的にサノスと(不承不承)手を組み、タイラントに立ち向かう……と言う、当時の『シルバーサーファー』誌のヒーロー&ヴィランが集結する話。うち#4(6/1994)は、レガシーの主役回で、ジェニスが父親の仇であるナイトロと戦い勝利する様が描かれる。


 ……で、その後、本作『アベンジャーズ・フォーエバー』のラストで、未来のキャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)が、瀕死のリック・ジョーンズを救ったことがきっかけで、現代のジェニス=ヴェルとリック・ジョーンズの間に絆が生まれてしまい、両名は「ネガバンド」を通じて肉体がリンクする状態となってしまった。

 要するに、現世にリックがいる間は、キャプテン・マーベルは異次元世界(後に「マイクロバース」と呼ばれる閉鎖次元界であることが判明)に送られており、リックが両腕の「ネガバンド」を打ち鳴らすことで2人の肉体が入れ替わる(リックはマイクロバースへ、ジェニスは現世へ。なお傍目には、リックがネガバンドによってマーベルに「変身」したように見える)。逆に、現世にジェニスがいる時に、彼がネガバンドを打ち鳴らすことで、マイクロバースのリックは現世に現われ、ジェニスはマイクロバースに送られる……といった状態になった(なお2人の精神はリンクしており、現世にいる側の視覚・聴覚をマイクロバース側が共有したり、相手の脳内に念話を送ることもできる)。

 で、『アベンジャーズ・フォーエバー』が#12(12/1999)で完結した翌月、即座に新キャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル/リック・ジョーンズ)を主役とした新オンゴーイング・シリーズ『キャプテン・マーベル(vol.4)』#1(1/2000)が創刊されることとなる。

 ちなみに、マーベルは、この新『キャプテン・マーベル』誌のプロモーションにそこそこ力を入れていたと見え、新シリーズが創刊される2か月前に、コミック情報誌「ウィザード」の付録として、『キャプテン・マーベル』#0(11/1999)を出す、ということもしていた。

 この新シリーズのライターは、直前まで『インクレディブル・ハルク』誌のライターを12年間勤めあげてきたベテラン、ピーター・ディビッド。ハルク(ブルース・バナー)のパートナーだったリック・ジョーンズの人生も長年綴ってきた彼は、リックが主役の新シリーズのライターとしては実に最適な人選と言えた。


 ちなみに、ピーター・ディビッドによる『インクレディブル・ハルク』誌の連載分は、各巻1000ページ越えの単行本『インクレディブル・ハルク バイ・ピーター・ディビッド・オムニバス』全4巻としてまとめられている。


 こちらは今年5月に刊行予定の『オムニバス』第5巻。12年の連載終了後、ディビッドが折々で書いた『ハルク』関連の作品を取りまとめた、落穂拾い的な一冊(の、割には900ページ弱もあるが)。


 閑話休題。

 ベテランのディビッドによるストーリーは、お気楽なリック・ジョーンズと生真面目なジェニス=ヴェルが脳内で掛け合いをしながらヒーロー活動に取り組む、疑似的な「バディもの」の様相を呈しつつ、リックの別居中の奥さんマーロ(ロサンゼルスでコミックショップを経営中。ちなみにリックと彼女の出会いから結婚までは『インクレディブル・ハルク』のディビッドの長期連載中に描かれた)やロレイン(マーロの悪友。初登場話で悪人に殺害され、以降、マーロにだけ見える幽霊として登場)、それにムーンドラゴン、ドラックス、シルバーサーファーと言ったコズミック系のキャラクターらが個性あふれる掛け合いを繰り広げる、オフビートなヒーローものに仕上がっており、毎号が心地の良いテンポで展開された。

 まあ、ディヴィッド好きの筆者のひいき目もあることは申告しておくが、つとめて客観的に評価しても、このピーター・ディビッドによる『キャプテン・マーベル(vol.4)』は、水準以上のクオリティを常に維持していた傑作である(シリーズを通じてのアーティストであるクリスクロスが、掛け合いをするキャラクターの表情を情感たっぷりに描いていたのも、本作の魅力の一つだ)。

 が、そのクオリティに比して、本シリーズの単行本は現在に至るまで1冊しか刊行されていない。


 それがこちらの『キャプテン・マーベル:ファースト・コンタクト』。『キャプテン・マーベル(vol.4)』#1-6と、「ウィザード」の付録だった#0を収録。残念ながら紙の単行本(絶版)だけで、電子書籍化もされていない。


 そんな訳で、現在、『キャプテン・マーベル(vol.4)』全35話を読むには、電子書籍『キャプテン・マーベル(vol.4)』を、1冊ずつ買っていくしかなく、中々面倒くさい(古い作品なので、1冊当たりの価格が低く、単行本で買うのとそんなに変わらないのが幸いだが)。


 さてその後、『キャプテン・マーベル(vol.4)』は、2002年に刊行された#35(10/2002)で終了した。というか、打ち切られた。

 打ち切りの理由は、当時のマーベル・コミックス社のパブリッシャー(出版人)であったビル・ジェイマスが、クオリティは高いものの爆発的な人気を獲得できている訳ではなかった『キャプテン・マーベル(vol.4)』に対し、「僕の素晴らしいアイデアを取り入れて、『キャプテン・マーベル』誌をテコ入れしたまえ、さもなくば打ち切る」的な話をし、「何言ってんだ、コイツ」と思ったピーター・ディビッドがジェイマスのアイデアを受け入れることを拒否したためであった。

 ちなみにビル・ジェイマスは、元々トレーディングカード・メーカーのフリーア・エンターテインメント(1992年にマーベル・エンターテインメントの傘下に入る)の社員で、1993年に同社の社長に就任した後、マーベル・エンターテインメントの副社長→2000年にマーベルのパブリッシャーに……という経歴を辿ってきた人間で、コミックのクリエイターとしての経験はない。

 いやまあ、ジェイマスは、2000年に創刊され、大ヒットを飛ばした『アルティメット・スパイダーマン』誌のライターとしてクレジットされてはいるが(ブライアン・マイケル・ベンディスとの「共著」とされる)、まあ正直こんなのは、プロットに多少口出しをした程度だろうし、彼が「脚本」と言えるものを1から書ける訳ではない。その程度の人間が、大ベテランのピーター・ディビッドに「僕のアイデアを取り入れたまえ」と助言した訳である。そりゃ、受け入れる訳がない。

 で、ディビッドに提案を断られたビル・ジェイマスは、どうしたかと言うと……「君の『キャプテン・マーベル』と、僕の書くコミックのどちらが上か、勝負だ! 売り上げの悪い方のシリーズが、打ち切られて、顔にパイを投げつけられる!」という、良く分からないことを言い出したのである。

 念を押すが、ピーター・ディビッドは、12年間マーベルで『インクレディブル・ハルク』の連載を行い、その他に無数の作品の長期連載を手掛けてきたベテランである。その彼に、クリエイター出身でもないマーベルの重役が、「どっちが面白いコミックを書けるか」という勝負を挑んだのである、正気の沙汰ではない。

 で、ディビッドとジェイマスの勝負は、当時の総編集長ジョー・ケサーダ(この人はアーティスト→独立出版社イベント・コミックス社の創業者→マーベルに編集者兼作家として起用され、「マーベル・ナイツ」レーベルを大成功させる→マーベル総編集長に昇格と、クリエイターから叩き上げでマーベルの重役になった人物)が間に立ち、「U-デサイド(U-Decide)」というイベントとなった(「You decide(君が選ぶ)」のモジり)。

 これは、ピーター・ディビッドの『キャプテン・マーベル』と、ビル・ジェイマスの新シリーズ『マービル』、それにケサーダが編集者として担当する新シリーズ『アルティメット・アドベンチャーズ』の3シリーズを同時に創刊し、読者人気を競う、というものであった。

 で、これを受けて『キャプテン・マーベル(vol.4)』誌は、一旦#35(10/2002)で終了し、改めて翌月に『キャプテン・マーベル(vol.5)』#1(11/2002)が創刊された(制作陣はピーター・ディビッド&クリスクロスのまま)。


 ありがたいことに、こちらの『キャプテン・マーベル(vol.5)』は、全25号の連載が、全4巻で単行本化されている(無論、電子書籍もあり)。キャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)が持つ、超宇宙的な察知能力(要は未来視)「コズミック・アウェアネス」を暴走させ、徐々に常軌を失い、超宇宙的な視野で行動するようになる話。

 で、ディビッドの『キャプテン・マーベル』よりも面白いコミックとして、ビル・ジェイマスが自信満々に送り出した『マービル(Marville)』は、当時人気を博していたドラマ『スモールビル』(スーパーマン/カル=エル/クラーク・ケントの少年時代を描く)の雑なパロディで、51世紀の未来から現代に送り込まれたカル=AOL少年が、適当に思いついたような経緯で大金持ちになったり、神さまと出会ったり、なぜだかウルヴァリンのオリジンが明かされたり、ストーリーそっちのけでマーベルの新クリエイター・オウン・レーベル「エピック」の宣伝に丸々1号使ったり……といった、まあ、全てにおいてオコガマしい、支離滅裂な話であった。

 一方、ケサーダの『アルティメット・アドベンチャーズ』は、ドジなヴィジランテのホークオウルに引き取られたハンク少年が、不承不承彼のサイドキック(少年の相棒)になるというコメディ調の話であったが、刊行予定が遅れに遅れまくったため(全6号を出すのに1年4か月かかった)、他のタイトルと人気を競う土俵にすら上がれない有様だった。


 こちらは、当時刊行された『マービル』の単行本。さすがにジェイマスも恥を知ったか、電子書籍化はなされていない。


 こちらは『アルティメット・アドベンチャーズ』の単話版電子書籍。単行本化はなされていない模様。

 で、結局、「U-デサイド」は、ピーター・ディビッドの『キャプテン・マーベル(vol.5)』が勝負を制し(というか、各誌が2号目を出した時点で、もはや誰の目にも決着は付いていたので、誰も「U-デサイド」のことを語らなくなった)、その後ピーター・ディビッドは、誰にもはばかることなく同誌の連載を2年強の間、続けることとなった(#1(11/2002)-#25(9/2004)の全25号。vol.4と合わせれば全60号をディビッド一人で書き切った、堂々の長期連載である)。


 こちらが最終4巻。同巻収録の最終話で、実はマーロのコミック・ショップで働いていた青年アルが、「物事に適切なケリをつける」ことを使命とする超宇宙的存在ユーロジーであることが判明。彼とその兄弟らによって、リック・ジョーンズとジェニス=ヴェルの結合は解消され、『キャプテン・マーベル(vol.5)』誌は、そこそこ適切な最終回を迎えるのだった(要するにメタなオチ)。


 でー、ピーター・ディビッドによっておおよそ「やり切った」感じになったキャプテン・マーベル(ジェニス=ヴェル)は、その数か月後に新創刊された、『ニュー・サンダーボルツ』#1(1/2005、ライターは、『サンダーボルツ』シリーズの生みの親であるカート・ビュシークと、かつて『キャプテン・マーベル』誌のライターを務めていたファビアン・ニシーザ)に登場し、しばし後の『ニュー・サンダーボルツ』#6(6/2005)で、ヒーローチーム、サンダーボルツに加入する。なお、この時、ジェニス=ヴェルは、諸事情により新たなパワーと外観を獲得することになり、これを受け、自身のコードネームを「キャプテン・マーベル」から「フォトン」に改名する。

 ちなみにこのニュー・サンダーボルツは、「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」でアベンジャーズが解散したのを受けて再結成されたチームで、#1の表紙は「ディスアセンブルド」のロゴをパロディした、「サンダーボルツ:リアセンブルド」というロゴになっていた。


 こちらは単行本『ニュー・サンダーボルツ:ワン・ステップ・フォワード』。『ニュー・サンダーボルツ』#1-6を収録。

 でー、その後『ニュー・サンダーボルツ』誌は、#8からファビアン・ニシーザ単独のライティングとなり、ニューアベンジャーズと遭遇したり、悪人チーム、スコードロン・シニスターと戦ったりといった諸々の末に、『サンダーボルツ』#100(5/2006、『ニュー・サンダーボルツ』#18号が刊行された翌月、通巻100号を記念してタイトルを『サンダーボルツ』に戻し、号数を#100にリナンバリングした)において、新サンダーボルツvs.バロン・ジーモ率いる旧サンダーボルツが戦った際に、フォトン(ジェニス=ヴェル)は、ジーモによって殺害される(『ニュー・サンダーボルツ』の初期の話で、ジーモが超宇宙的なパワーを用い、キャプテン・マーベル能力を変質させた結果、なんか宇宙が滅びるかもしれなくなったので、フォトンを殺すことにした)。


 こちらが、その『サンダーボルツ』#100を収録した単行本『ニューサンダーボルツ:ライト・オブ・パワー』。『ニューサンダーボルツ』#13-18と『サンダーボルツ』#100、それにサンダーボルツの初期の登場話である『テールズ・オブ・ザ・マーベル・ユニバース』#1掲載の短編を収録。

 かくて、ジェニス=ヴェルは死亡し、しばらくの後、「キャプテン・マーベル」の称号は、元ミズ・マーベルの、キャロル・ダンバースが継承することとなる(2012年創刊の『キャプテン・マーベル(vol.7)』#1(9/2012)での出来事)。

 が、それから10年ほどが経った2021年に刊行された、『キャプテン・マーベル(vol.10)』#32-36(11-12/2021, 2, 3, 3/2022)で展開されたストーリーライン「ザ・ラスト・オブ・ザ・マーベルズ」の作中で、「マーベル」の称号を名乗ってきた歴代のヒーローが集結した際に、突如、ジェニス=ヴェルは復活を遂げる。


 こちらが「ザ・ラスト・オブ・ザ・マーベルズ」を収録した単行本『キャプテン・マーベル:ザ・ラスト・オブ・ザ・マーベルズ』。『キャプテン・マーベル(vol.10)』#31-36を収録。

 この作中でのジェニス=ヴェルは、過去の記憶を失っており、自身の復活の経緯についても、なんら覚えていなかったのだが、その後、2022年夏に刊行されたリミテッド・シリーズ『ジェニス=ヴェル:キャプテン・マーベル』#1-5(8-12/2022, 1/2023)において、正式に彼が復活した経緯が語られることとなる。


 こちらが、その『ジェニス=ヴェル:キャプテン・マーベル』の単行本。ライターはピーター・ディビッドで、リック・ジョーンズ、マーロらも再登場する。『ジェニス=ヴェル:キャプテン・マーベル』#1-5を収録。


 そんな訳で、2006~2021年まで、実に15年の間死にっ放しだったジェニス=ヴェルは、育ての親であるピーター・ディビッドの導きにより、新たな状況設定を与えられ、再びヒーロー「キャプテン・マーベル」としての道を歩みだすのだった。

 以上、趣味に走ったエントリ、ここまで。
  
  
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2023/03/22(水)18:00
■Secret War
■Writer:Brian Michael Bendis
■Artist:Gabriele Dell'Otto
■翻訳:田中敬邦 ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BCRJM1H5



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第18号は、21世紀初頭のマーベル・コミックス社の筆頭ライター、ブライアン・マイケル・ベンディスが2004-2005年にかけて展開した全5話のリミテッド・シリーズ『シークレット・ウォー』を単行本化。

 世界的な諜報機関S.H.I.E.L.D.の長官であるニック・フューリー大佐はある日、スーパーヴィランたちに資金提供し、テロ計画を企てる組織があることを知る。その危険を回避するため、ブラックオプスチームを結成し、スパイダーマン、ウルヴァリン、デアデビル、キャプテン・アメリカとルーク・ケイジがこの影の脅威に立ち向かう。しかし1年後、過去が再びチームを脅かすような出来事が起こり始める……。(第18号表4あらすじより)

 収録内容は『シークレット・ウォー』#1-5(4, 7, 10/2004, 5, 12/2005)。

 念のため言っておくが、本作は「シークレット・“ウォー”(単数形)」である。1984年のマーベルの大型クロスオーバー『マーベル・スーパーヒーローズ シークレット・ウォーズ』や、2015年のマーベルの大型クロスオーバー、『シークレット・ウォーズ』と混同しないよう、注意されたい(もちろん本作のタイトルは、1984年版『シークレット・ウォーズ』へのオマージュとして冠されているわけだが、内容的にはこの2作に特に関連性はない)。


 こちらが1984年版『シークレット・ウォーズ』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」91、100号)。超存在ビヨンダーによって、宇宙の彼方の惑星「バトルワールド」に送り込まれたスーパーヒーロー、スーパーヴィランたちが、熾烈な戦いを繰り広げる。その一方で、ドクター・ドゥームはビヨンダーの全能のパワーを狙う。


 こちらは1985年に展開された大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズII』。その名の通り、『マーベル・スーパーヒーローズ シークレット・ウォーズ』の直接の続編。前作で地球人類に興味を持ったビヨンダーが地球に来訪し、その全能のパワーで混乱を巻き起こす。


 でもってこっちは、2015年版『シークレット・ウォーズ』。多元宇宙が衝突する「インカージョン現象」の果てに、宇宙が消滅。しかし、超存在ビヨンダーズの全能のパワーを奪うことに成功したドクター・ドゥームは、己の意のままに宇宙を再生する……といった感じの話。


 閑話休題。

 本作『シークレット・ウォー』は、2000年の『アルティメット・スパイダーマン』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第25号)、2001年の『デアデビル』のライターとして、高いファン人気を獲得したベンディスが、『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第16号)に先駆けて手掛けたシリーズである。

 本作のメインキャラクターである、ルーク・ケイジ、ウルヴァリン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマンといったヒーローらは、『ディスアセンブルド』後にベンディスがライターを務める新雑誌『ニューアベンジャーズ』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第33号)のメンバーとも重なっており、まあ、ベンディス期の『アベンジャーズ』のプレリュード的な作品と言える。

 おそらくは、元々はマーベル的には『シークレット・ウォー』(4/2004~、隔月刊)を展開していきつつ、3号目が出たあたりで『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』(8/2004~)を開始。その後ベンディスによる『ニューアベンジャーズ』(1/2005~)創刊という、3ステップを経て、「『アベンジャーズ・ディスアセンブルド』で解散したアベンジャーズが、あの『シークレット・ウォー』に登場したメンバーをベースに再結成される!」的な感じで、ベンディスの『ニューアベンジャーズ』誌を盛り上げようとしていたのだろう。

 が、その嚆矢となるはずだった本作は、諸事情により刊行が遅れに遅れ(おそらくはアーティストのガブリエル・デルオットーが締め切りを盛大に破った)、『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』が開始された時点で『シークレット・ウォー』はまだ2号しか出ておらず、4号目が出るよりも先に『ニューアベンジャーズ』が創刊され、最終号が出たのは『ニューアベンジャーズ』誌が1周年を迎えた2005年末という有様となった。


 ちなみに、『シークレット・ウォー』は、当時ベンディスが手掛けていたオンゴーイング・シリーズ『ザ・パルス』(デイリー・ビューグル新聞社のベン・ユーリックとキャット・ファレル、それに私立探偵ジェシカ・ジョーンズが主役の、「スーパーヒーロー社会で、様々な事件の裏を取材する新聞記者」の物語)の#6-9(1, 3, 5, 7/2005)とタイインしている。


 単行本タイトルは、ずばり『ザ・パルス:シークレット・ウォー』。ジェシカ・ジョーンズ(『シークレット・ウォー』の冒頭で重傷を負ったルーク・ケイジの恋人)とベン・ユーリックが、「シークレット・ウォー」の取材を行う過程で、さらなる陰謀に巻き込まれ、その上、意識不明のはずのルーク・ケイジが失踪する……といった話。

 本来は、『シークレット・ウォー』の完結の直後ぐらいに、こっちのタイイン話が始まって、「本編の裏ではこんなことが……」的な展開をする予定だったのだろうが、まあ、本篇の刊行が遅れたのを受け、「本編のネタバラシをしないように気を遣った表現にしてるなぁ」的な個所が散見されるのはご愛敬。


 んで、本作『シークレット・ウォー』で起きた事件を受けて、諜報組織シールドの長官ニック・フューリーは、いずこかへ潜伏する。それまでヒーロー側にある程度融通を聞かせ、アメリカ政府や国連などの圧力からある種の防波堤となっていたフューリー(その一方で、本作で書かれていたように、自身の都合でヒーローに後ろ暗い任務をさせたりもする)という存在が消えたことで、新生したニューアベンジャーズは、様々な困難に直面することとなる。

『ニューアベンジャーズ』の初期の話では、フューリー不在のシールドが不審な活動を行い、ニューアベンジャーズと対立したりもしてるのだが、その辺の話をしている時点で『シークレット・ウォー』が完結しておらず、フューリーの帰趨も描かれなかったのだから、いささか締まらない。

 その後、ベンディスの『ニューアベンジャーズ』は、『ハウス・オブ・M』(2005年、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第38号)、『シビル・ウォー』(2006年、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第45号)と言った一連の大型イベントを経験していき、2008年の大型イベント『シークレット・インベージョン』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第69号)で、潜伏していたフューリーの物語に色々と説明されることとなる(幸い、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では、これらのベンディス期の初期に起きた大型イベントは網羅している)。

 なお、ヴィレッジブックスは、2005~2010年頃までのベンディスの『ニューアベンジャーズ』と、それに関連する大型クロスオーバー・イベントを大よそ網羅的に邦訳するということをしており、ベンディス期(2005~2012年)の概要を掴むには、これら一連の単行本を買って読んでいただくのが一番手っ取り早いのだが、ヴィレッジブックスが出版から撤退した現在では、それもなかなか難しい話となった。残念。


 こちらは2010年に刊行された邦訳版『ニューアベンジャーズ』第1巻。


 余談:本作は、東欧の架空の国家ラトヴェリアを舞台としているが、作中の時点では、ラトヴェリアの国王であるドクター・ドゥームは不在である。これは、マーク・ウェイド&マイク・ウィアリンゴによる『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』の作中で起きた事件の結果、ドクター・ドゥームは「地獄」に送られていたため。その後、ドクター・ドゥームは、『シビル・ウォー』とタイインした、J・マイケル・ストラジンスキー期の『ファンタスティック・フォー』誌上で、現世に帰還している。
  
  
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2023/02/03(金)18:00
■New X-Men: E Is For Extinction
■Writer:Grant Morrison
■Penciler:Frank Quitley
■翻訳:田中敬邦 ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BC1V6MD1



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第17号は、2001年より気鋭のライター、グラント・モリソンを迎えて新展開を行った『ニューX-MEN』誌の最初のストーリーラインを単行本化。

 グラント・モリソンは、マーベルのライバルのDCコミックス社で、同社の看板タイトル『ジャスティス・リーグ』を、(この当時の市場の潮流であった「王道路線」で)再生した『JLA』を1997年より手がけ、高い評価を受けていた作家。2000年に刊行された『JLA』#41で、ひとまず連載を完結させたモリソンは、そのままマーベルに引き抜かれ、マーベルの看板タイトルの『X-MEN』誌の再生を任された。

 ミュータントと人間の関係は壊れつつある。日々、多くのミュータントが生まれ、その一人ひとりに、怒りを克服しその超越した才能に責任を持ち、使う方法を教える教師が必要な今、チャールズ・エクゼビアの学校もまた、いまだかつてないほど必要とされている。しかし、エグゼビア教授とX-MENたちは、彼の夢を悪夢に変えるかもしれない、長い間忘れていた敵の再登場によってその存在を試されることになる……。(第17号表4あらすじより)

 内容は、『ニューX-MEN(vol.1)』#114-116(7-9/2001)の全3話で展開された表題作「E・イズ・フォー・エクステンション」編と、『ニューX-MEN(vol.1)』#117(10/2001)に掲載された「デンジャー・ルームス」を収録。

 ちなみに本来の『ニューX-MEN:E・イズ・フォー・エクスティンクション』の単行本では、#116と#117の間に、増刊号『ニューX-MEN アニュアル』#1(9/2001)に掲載された「ザ・マン・フロム・ルームX」を収録しているのだが、本単行本ではなぜだかカットされている(なので、大分薄い単行本になっている)。このアニュアルは、モリソンの『ニューX-MEN』の重要キャラクターであるゾーンの初登場号である。



 こちらがオリジナルの単行本のKindle版。『ニューX-MEN』#114-117とアニュアル#1を収録。


 で、本作の続刊『ニューX-MEN:インペリアル』(『ニューX-MEN(vol.1)』#118-126を収録)は、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第75号として刊行予定。だいぶ先過ぎる(オリジナルの「The Official Marvel Graphic Novel Collection」では、『E・イズ~』が17号、『インペリアル』が34号なのだが)。

 なお、グラント・モリソンによる『ニューX-MEN』の連載(#114-154+アニュアル1冊の41話)は、連載当時に全話が全7巻の単行本にまとめられているが、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」で刊行されるのはこのうち2巻分(#114-126の13話)である。

 そんな訳で今回は、モリソン期の単行本の残り5冊を大まかに紹介する。



 まずは第3巻『ニュー・ワールズ』。『ニューX-MEN』#127-133の7話分を収録。

『アニュアル』#1で初登場し、X-MENに加入したゾーンが、ミュータントの少年を救おうとするシンミリした話(#127)に始まり、やはりモリソン期の『ニューX-MEN』の重要キャラクターであるファントメックスが初登場し、プロフェッサーX、ジーン・グレイと共に超人兵士製造計画「ウェポン・プラス」によって生み出された改造人間ウェポンXIIと戦う話(#128-130)、サイクロップスと学園の生徒ビークの日常に焦点を当てた回(#131)、壊滅したジェノーシャを舞台に、生き残った人々と死んだマグニートーの「遺言」を巡る話(#132)、マーベルの初期のムスリム系キャラクターであるダストの初登場回(#133)と、バラエティに富んだ内容。




 続いて第4巻「ライオット・アット・エグゼビアズ」。『ニューX-MEN』#134-138の5話分を収録。

 内容的には、エグゼビア高等学院で、自身の能力の訓練に励む若きミュータント、クェンティン・クワイア少年が、ニューヨーク市内で著名なミュータントが殺害された事件をきっかけに、「キッド・オメガ」を名乗るようになり、ミュータントの権利を獲得するための闘争と内ゲバを開始する表題作「ライオット・アット・エグゼビアズ」(#135-138)と、そのプロローグである「キッドΩ」(#134)。

 その後の『X-MEN』関連誌でレギュラー・キャラクターとなる新世代ミュータントの、キッド・オメガ、ステップフォード・カッコーズ、グロブ・ハーマンらに初めて焦点があてられたエピソードである。




 第5巻『アサルト・オン・ウェポン・プラス』は『ニューX-MEN』#139-145の7話分を収録。

 中身はエグゼビア学院内で起きた殺人事件を、X-MEN別動隊(エクストリームX-MEN)のビショップとセージが捜査する「マーダー・アット・エグゼビア・マンション」(#139-141)と、ウルヴァリン(ウェポンX)、ファントメックス(ウェポンXIII)の二人が、彼らを改造した秘密機関「ウェポン・プラス」の持つ情報を探るため、偶然拾ったサイクロップス(ジーン・グレイにエマ・フロストとの浮気がバレて家出中)と共に組織の拠点に乗り込む表題作「アサルト・オン・ウェポン・プラス」(#142-145、クリス・バチャロがゲスト・アーティストとして参加)の2本のストーリーラインになる。

「アサルト・オン~」は、第3巻収録話の続きで、キャプテン・アメリカ(ウェポンI)やニューク(『デアデビル:ボーン・アゲイン』で初登場した改造兵士)もウェポン・プラスの生み出した存在だったことが判明するなど、ウェポン・プラス関連設定のさらなる掘り下げが行われている。




 続く第6巻「プラネットX」は、『ニューX-MEN』#146-150を収録。モリソン期のクライマックスとなるエピソード。

 謎の敵の巧みな攻撃により、プロフェッサーXとX-MENが全滅。正体を現した「彼」は、有志のミュータントらを味方につけ、マンハッタンを占拠する(ネタバレになるので詳細は伏す)。




 最終7巻『ヒア・カムズ・トゥモロー』は、『ニューX-MEN』#151-154を収録。

 可能性の未来で、モリソン期の『ニューX-MEN』に登場した無数のキャラクターたちが、謎の「フェニックス・エッグ」を巡る争いに巻き込まれていくというエピローグ。ゲストアーティストのマーク・シルベストリが全話を描いている。


 なお、モリソン期の『ニューX-MEN』は、高い評価を受けたため、その後2006年に、全話を1000ページ強のハードカバー単行本全1巻に完全収録した『ニューX-MEN オムニバス』も刊行された。

 この豪華単行本は、非常な好評を博し、2012年、2016年にも増刷され(1回出せば終わりなコレクターズ・アイテムの『オムニバス』単行本では珍しい話だ)さらに2023年6月にも、4刷目が刊行される予定。



 4刷目はAmazonでも絶賛予約受付中(2023年2月現在)。中々のな価格だが、1000ページのハードカバーなのでしょうがない(それでも毎度売り切れるのだから、大したものだ)。


 なお、『ニューX-MEN オムニバス』は電子書籍版も刊行されている。



 要するにこれ。ただし、全1巻なので、ファイルサイズが3ギガ以上ある。購入時は端末の容量に注意。


 また2008年には、オリジナルの全7巻の単行本を、そこそこ厚めの全3巻の単行本として再編集した『ニューX-MEN バイ・グラント・モリソン:アルティメット・コレクション』が刊行されている。



 上はその第1巻。オリジナルの全7巻版、『オムニバス』全1巻、『アルティメット・コレクション』全3巻のどのエディションを買うかは、まあ、お好みで(なお、この原稿を執筆していた頃は、『オムニバス』が期間限定セールで、『アルティメット・コレクション』1巻分の値段で買えるという非常にお得なことになっていた)。
  
  
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2023/01/17(火)18:00
■Avengers: Disassembled
■Writer:Brian Michael Bendis
■Penciler:David Finch
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0B8RJ3CPM



「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第16号は、2004年に展開された「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」イベントの中核となる、『アベンジャーズ』誌のストーリーラインを単行本化。

 アベンジャーズの暗黒の日々を目撃せよ! 終わりの見えない悲劇の連続が、チームを屈服させる。しかし、アベンジャーズの多くの敵の中で、だれがこのような陰湿な計画を企てたのだろうか。征服者カーン? ウルトロン? ネファリア伯爵? それとも、アベンジャーズ内部からの犯行なのだろうか? 混迷を極めるなか、ひとつだけ確かなことがある。それは世界最強のスーパーヒーロー・チームは、もう二度と元には戻れないということだ……。(第16号表4あらすじより抜粋。「中」と「なか」の表記が混在しているのは原文ママ)

 収録作品は『アベンジャーズ(vol.1)』#500-503(9-12/2004)と、エピローグである特別号『アベンジャーズ・フィナーレ』#1(1/2005)。

 ちなみに本作は、2019年にヴィレッジブックスからも邦訳版が刊行されていた。

 が、まあ、昨年末にヴィレッジブックスが公式にアメリカン・コミックスの出版から手を引いたために、ヴィレッジのメジャーどころの邦訳作品は軒並み売り切れて、マーケットプレイスでヒドいプレミアが付けられているので、まあ、入手は手間だ(一応リンクは貼りはするが)。




 で、だ。

 前回のエントリで言及した、カート・ビュシーク、マーク・ウェイドら「王道回帰」派のライターらを中心に『アベンジャーズ(vol.3)』、『ファンタスティック・フォー(vol.3)』、『キャプテン・アメリカ(vol.3)』、『アイアンマン(vol.3)』、『ソー(vol.2)』の5誌を一斉に新創刊した「ヒーローズ・リターン」イベントが1998年のことで。

 それから6年ほどが経ち、王道回帰の流れもだいたい一区切りがつき落ち着いたので、新しいカンフル剤を投入することで、「次」の潮流を生み出し、各誌の活性化を目論んだのが、この2004年の「ディスアセンブルド」イベントである(過去のエントリでも説明はしていたが、まあ、もう一度説明する)。

 この、新たなカンフル剤として起用されたのが、ライターのブライアン・マイケル・ベンディスである。彼は1990年代末にイメージ・コミックスの『パワーズ』など、インディーズ・コミック出版社での仕事で注目を集めた後、2000年に創刊されたマーベルの『アルティメット・スパイダーマン』誌の最初のライターに起用され、さらに2001年からは青年層向けの「マーベル・ナイツ」レーベルの看板タイトル『デアデビル』のライターも任され、アイズナー賞他の名だたるコミック賞を獲得していた気鋭の作家だった。



 こちらが『パワーズ』。超人たち(パワーズ)が街を闊歩する世界で、ヒーロー絡みの殺人事件に取り組む刑事たちの奮闘を描く。


 んで、「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」イベントは、ベンディスが担当する『アベンジャーズ(vol.1)』500-503+α(※)で、アベンジャーズの一時代の終わりを描いたストーリーライン「ケイオス」を展開し、その一方で『キャプテン・アメリカ(vol.4)』、『キャプテン・アメリカ&ファルコン(vol.1)』、『アイアンマン(vol.3)』、『ソー(vol.2)』の4誌でも、それぞれのヒーローの物語に一区切りをつけるストーリーを行い、その物語の終わりをもって、各誌をいったん打ち切り、新たな作家陣を起用しての新シリーズの創刊に繋げる……という具合の構成となった。

(※)『アベンジャーズ』誌は、前月は『アベンジャーズ(vol.3)』#84(9/2004)が刊行されていたのだが、『アベンジャーズ』誌通巻500号を記念し、volumeを「1」に戻した上で、ナンバリングを累計の「#500」にしている。



 上が『アベンジャーズ』誌でのストーリーをまとめた『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』の単行本。おそらくアシェット版も、ヴィレッジ版も、この単行本を定本としている。



 で、こっちがタイインの『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#29-32、『アイアンマン(vol.3)』#84-89、『ソー(vol.2)』#80-85、『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン(vol.1)』#5-7を収録した単行本『アベンジャーズ:ディスアセンブルド アイアンマン,ソー&キャプテン・アメリカ』。


 なお、「ディスアセンブルド」イベントは、『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#517–519(※)と、『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol.2)』#15–20、それに『エクスカリバー(vol.3)』#8の3誌ともタイインしていたが、これらのタイトルは最終回は迎えず、そのままシリーズは続いた。

(当時の『ファンタスティック・フォー』誌はマーク・ウェイドを起用したテコ入れが成功しており、刷新の必要がなかった。『スパイダーマン』編集部も、「ディスアセンブル」イベントの盛り上げに協力てタイインしたものの、テコ入れは必要としていなかった。また『エクスカリバー』は、ライターのクリス・クレアモントが好き勝手に書いてたタイトルで、「ディスアセンブルド」のイベントに協力する気は薄かった)

(※)『ファンタスティック・フォー』誌も、『ファンタスティック・フォー(vol.3)』#70を刊行した翌月に、通巻500号記念で、『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#500にナンバリングが改められていた。



 こちらがタイイン分を収録した『ファンタスティック・フォー:ディスアセンブルド』の単行本。『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#514-519を収録。ライターは、この間紹介した『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』と同じく、マーク・ウェイド。

 内容的には「ディスアセンブルド」の後日談で、突如マンハッタン島に襲来した巨大宇宙船の引き起こした災害に、ファンタスティック・フォーの4人が奮闘する(なにせこういう時に頼りになるアベンジャーズが活動停止してるので)。やがて、宇宙船の乗組員の目的が、ファンタスティック・フォーの一員、インビジブルウーマンにあることが判明し……と言った具合の話。


 ちなみに、ウェイド期の『ファンタスティック・フォー』誌に興味がある人間は、上の単行本ではなく、『ファンタスティック・フォー バイ・マーク・ウェイド&マイク・ウィーリンゴ アルティメット・コレクション』(全4巻)の4巻目を買う方が後々良いだろう(逆に『ディスアセンブルド』にしか興味のない方は上記の単行本でよろしい)。



 要するにこちら。収録作品は『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#514-519(「ディスアセンブルド」編)と、#520-524(ウェイド期の最終エピソード、「ライジング・ストーム」編)。



 こっちは『スペキュタクラー・スパイダーマン』誌のタイインをまとめた『スペキュタクラー・スパイダーマン:ディスアセンブルド』の単行本。『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol.2)』#15–20を収録。

 「ディスアセンブルド」のプロローグと銘打たれたタイインだが、あまり本編とは関連していない(『スパイダーマン』誌では珍しく、全編に渡りキャプテン・アメリカがゲスト出演しているが)。
 遺伝子に「虫因子」を持つ人間(人類の1/3が持つとされる)を意のままに操るヴィラネス、クイーンが現われ、キャプテン・アメリカとスパイダーマンが立ち向かう。しかし、クイーンの能力により、スパイダーマンは巨大なクモに変じてしまう……といった話。

 ちなみにクイーンとスパイダーマンの因縁は、その後、2011年の「スパイダー・アイランド」編にて決着が付けられる(こちらでもキャプテン・アメリカが重要な役割で登場する)。
 


 こちらは2021年に小学館集英社プロダクションから刊行された、邦訳版『スパイダー・アイランド』。




 で、これはタイインの『エクスカリバー(vol.3)』#8を収録した単行本『エクスカリバー:サタデー・ナイト・フィーバー』。『エクスカリバー(vol.3)』#5-10を収録。

 同シリーズの主人公の一人、マグニートーが、壊滅したジェノーシャ(テロにより消滅したミュータント国家)の復興に尽力していたところ、「ディスアセンブルド」事件のニュースが飛び込んで来、即座にアメリカに飛び、ワンダを連れ帰る……という内容だが、物語の大部分はジェノーシャ島での騒動に割かれ、ラスト数ページでマグニートーがあわただしくワンダを連れ帰ってくる(ライターのクリス・クレアモントの「勝手にワンダの設定をいじりやがって」的なイラつきが、このあわただしく雑な回収に現われていると感じるのは、うがち過ぎだろうか)。

 その後、マグニートーは、友人のプロフェッサーXに娘ワンダの治療を依頼。物語は続刊の『ハウス・オブ・M プレリュード:エクスカリバー』を経て、2005年のマーベルの大型クロスオーバー、『ハウス・オブ・M』(ライターはブライアン・マイケル・ベンディス)に続く。



 この『ハウス・オブ・M プレリュード:エクスカリバー』は、『エクスカリバー(vol.3)』#11-14を収録(ちょっと薄め)。『ハウス・オブ・M』は、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」38号として刊行予定(ヴィレッジブックスからも邦訳は刊行されていたが、省略)。


 で、この一連の『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』イベントを経て、『アベンジャーズ』関連誌は、ブライアン・マイケル・ベンディス他の新世代の才能あるライターらによって再始動するのだが、まあ、その辺の話は、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第33号、『ニュー・アベンジャーズ:ブレイク・アウト』のエントリででも語ることとしよう(筆者がそこまで飽きずにこのブログを続けられたらの話だが。


 ちなみに『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』と、各タイインの時系列は以下のような具合になる。

・『アイアンマン(vol.3)』#84–85:前日譚。当時、国防省長官を務めていたトニー・スターク(アイアンマン)が、再起動してしまった冷戦時代の秘密兵器「アーセナル・アルファ」に、アベンジャーズと共に立ち向かう。

・『ソー(vol.2)』#80–81:同誌の最終エピソード、「ラグナロク」編の前半部。魔法の鎚ムジョルニアの「鋳型」を手に入れた欺瞞の神ロキは、炎の巨人スルトの協力で、魔法の鎚を量産し、北欧神話の九つの世界への侵攻を開始する。敵軍勢との戦いの煽りで、ミッドガルド(地球)に漂着したソーは、キャプテン・アメリカ、アイアンマンと共にアスガルドに戻り、「鋳型」を破壊する。しかし、天上の闘いに人間たちを巻き込むことを望まぬソーは、キャプテンらを地上に戻す。

・『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』#5–7(9-11/2004):アメリカ海軍が開発した超人兵士「アンチ・キャップ」を追うキャプテン・アメリカと相棒のファルコン。しかしスカーレット・ウィッチの魔力が密かに2人の精神に影響を及ぼし、捜査を困難にする。なお、『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』誌は、その後の#8-14(12/2004-6/2005)で、「アンチ・キャップ」絡みの話に決着をつけた上で休刊。



 こちらが#8-14を収録した単行本『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン:ブラザーズ&キーパーズ』。


・『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#29(9/2004):今日もミスター・ハイドを倒し、相棒のダイヤモンドバックと共にヒドラの拠点を強襲するキャプテン・アメリカ。しかし彼は、ニック・フューリーへの反抗を目論むシールド隊員マーク・ノーランによる陰謀に巻き込まれていく。

・『アベンジャーズ』#500-503(9-12/2004):『ディスアセンブルド』本編。「ケイオス」編。

・『エクスカリバー(vol.3)』#8(2/2005):時系列的には「ケイオス」編ラストと同時期(刊行自体は、『ディスアセンブルド』完結の2ヶ月ほど後)。マグニートーがワンダを迎えに行くまで。

・『アイアンマン(vol.3)』#86–89(9-12/2004):後日談。『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』冒頭の、国連会議での失態により、国防長官トニー・スタークの権威は失墜する。そんな中、トニー・スタークを逆恨みする男が、偽アイアンマン・アーマーを着て、スタークの関係者を次々に殺害していく。辛うじて事態を収拾したスタークは、自身がアイアンマンだと明かしていたことが関係者の殺害に繋がったことを反省し、アイアンマンを引退する旨をアナウンスし、同時に長官職も辞す(その後の「エクストリミス」編でアイアンマンに復帰するのだが)。

・『エクスカリバー(vol.3)』#9-10(3-4/2005):タイインとは銘打たれていないものの、作中ではワンダをジェノーシャに引き取ったマグニートーの苦悩が描かれる。

・『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#30-32(10-12/2004):#30の冒頭で、#29と#30の間に、「ディスアセンブルド」事件があった旨が言及される。ダイヤモンドバックと共に、旧敵サーペント・ソサエティを打倒したキャプテン・アメリカだが、レッドスカルの急襲を受け、ダイヤモンドバックが殺害されてしまう。……が、全てはシールド長官ニック・フューリーの遠大な策謀であり、やがて死んだはずのダイヤモンドバック(その正体は精巧な人造人間)によってレッドスカルは捕縛され、スカルを利用していたノーランもフューリーに逮捕されるのだった。

・『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#517-519(10-12/2004)

・『スペキュタクラー・スパイダーマン(vol.2)』#15–20(8-12/2004)

・『ソー(vol.2))』#82–85(9-12/2004):ロキ、スルトとの戦いの末に、全能の力「オーディンパワー」を得たソーは、北欧の神々の戦いを糧とする超越神「影の中に腰を下ろす者たち」の存在に気づき、あえてアスガルドを滅亡に導いた後、宇宙の歴史を紡ぐ“糸”を断ち切ることで神々を永遠の闘争の宿命から解放し、自らは虚空に消える。

・『アベンジャーズ:フィナーレ』#1(1/2005):アベンジャーズ、公式に解散。

・『ニュー・サンダーボルツ』#1(1/2005):タイインとは明言されていないものの、表紙に「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」のロゴが配され、「一応、『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』を受けての物語」であることが明示されている。アベンジャーズの解散を受け、元悪人たちによるヒーローチーム「サンダーボルツ」が再結成される。




・余談:

 ちなみに本作『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』の作中では、アベンジャーズの代表的なメンバーが死亡・退場しているが、「あの世へのドアが回転ドアになっている」ことでお馴染みのマーベル・ユニバース故、その後全員生き返っている。

 もう一度言う。全員、生き返って、いる。

 具体的には、こんな感じだ。

・ホークアイ(自爆):『ニューアベンジャーズ』#26(1/2007)で、ワンダの現実改変能力によって蘇生していたことが判明。

・ジャック・オブ・ハーツ(ゾンビとして復活した後、自爆):ミニシリーズ『マーベル・ゾンビーズ・スプリーム』#1-5(5, 5, 6-8/2011)の中で、未知のZエネルギーにより復活。

・アントマン(爆死):ミニシリーズ『アベンジャーズ:チルドレンズ・クルセイド』#1-9(9, 11/2010, 1, 3, 6, 8, 11/2011, 1, 5/2012)の作中で、時間を遡ったヤング・アベンジャーズの面々により、爆死する寸前に救助される(つまり、「死んでなかった」ことにされた)。

・ヴィジョン(大破):トニー・スタークが余暇に修理しており、『アベンジャーズ(vol.4)』#19(1/2012)で、アベンジャーズのメンバーが再編成されるタイミングで復帰。

 ……と、まあ、『ディスアセンブルド』から8年を経た2012年の時点で全員が復帰した。本作の余韻が割と台無しになったと見るか、物語を盛り上げるために殺された犠牲者が、生き返ることができて良かったと見るかは、あなた次第ではある。
  
  
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2022/12/13(火)18:00
 最初に言っておくが、今回のエントリは大分に私見を含む。だいたい話半分で聞いていただくことを推奨する。

 さて、前のエントリで紹介した『マーベルズ』が刊行された1994年当時のマーベル・コミックス社のコミックブックは──引いてはコミック業界全体は──売り上げは変に伸びていたものの、コミックの内容的には、なんというか、こう、迷走していた(私見です)。

 迷走の理由について私見を言えば、その少し前の1980年代後半に、コミック界を震撼させる様々な「発展」が複数起きたものの、その発展を継承して、さらにコミック界を発展させることに失敗したというか、割と変な具合に継承してしまったから、ではないかと思う。


 例えば、当時のコミックのストーリーの変化だ。

 1980年代後半に、アラン・ムーアの『ウォッチメン』や『バットマン:キリング・ジョーク』、フランク・ミラーの『バットマン:ダークナイト』、グラント・モリソンの『アーカム・アサイラム』、ニール・ゲイマンの『サンドマン』といった、高い年齢層を意識したコミックが続々とヒットを飛ばした。



 また一方で1980年代中頃から『シークレット・ウォーズ』(1984年)、『クライシス・オン・インフィニット・アース』(1986年))、あるいは『ミュータント・マサカー』(1986年。『X-MEN』関連誌で展開された話で、下水道に隠れ住むミュータントたちが悪人たちに虐殺され、X-MEN側からも多数の重傷者が出る話)といった、「クロスオーバーもの」の企画が登場し、同一テーマが同時期に複数のタイトルで同時に描かれ、かつ、作品世界を揺るがせる大事件が起きる、ライブ感覚とダイナミズムの妙が好評を博し、大きな成功を納めた。



 で、そうした「大人向けの話」「大事件が起きる話」を描いた特別なコミックが人気を博したのを受け、一般向けの普通のコミックでも、大人向けで、人が死んだりするような大事件が起きるストーリーが割と普通に書かれるようになった。

 そのこと自体はコミックの表現の枠と物語の可能性を広げる喜ばしいことではあったが、その一方で、「スーパーヒーローが悪人にリンチされ、相棒のヒーローがその復讐のために悪人を殺害する」的な、ひたすらに暗くて殺伐とした(いわゆる「グリム&グリッティ」な)コミックが、割とコンスタントに送り出されるようにもなった。その、安易に「大人向けのコミック」を送り出そうとすると、そうした「リアルさ」を追求する方向に行きがちなものだ。

 この間のエントリで紹介したJ.M.デマティスの『スパイダーマン:クレイヴンズ・ラストハント』(1987年)や、ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカのメンバーが仇敵の策謀で戦死していく「ジ・エンド・オブ・ザ・ジャスティスリーグ」(1987年)、1988年に『バットマン』関連誌で展開されたイベント「ア・デス・イン・ザ・ファミリー」(バットマンの相棒のロビンがジョーカーにバールで滅多打ちにされた末に爆殺される話。ロビンの生死は読者の「電話投票」で決定された)、マイク・グレルの『グリーンアロー:ロングボウ・ハンターズ』(作中でグリーンアローの相棒のブラックキャナリーが悪人に拷問を受け、その悪人をグリーンアローが容赦なく殺す。ただしこれは元から「成人向け」として刊行されたシリーズ)等々。






 中には『クレイヴンズ・ラストハント』の様に、後年にマスターピースとして評価される「グリム&グリッティな傑作」も登場したが、そうした作品は、他の無数の「安易なグリム&グリッティ」の作品群に押し流された。

 一方で、主人公が悪人を容赦なく殺害する『パニッシャー』のオンゴーイング・シリーズも1987年に創刊され、翌年には姉妹誌である『パニッシャー:ウォー・ジャーナル』なども創刊されるなど、雑誌のコンセプトからして殺伐とした内容のコミックも登場し、「グリム&グリッティ」の時代が花開いていく。




 また一方で、「クロスオーバー」ものの人気を受け、マーベルは『シークレット・ウォーズII』(1985年)、『フォール・オブ・ミュータンツ』(1988年)、『エボリューショナリー・ウォー』(1988年)、『インフェルノ』(1988年)、『アトランティス・アタックス』(1989年)、『アクツ・オブ・ヴェンジャンス』(1989年)、『デイズ・オブ・フューチャー・プレゼント』(1990年)、『X-ティンション・アジェンダ』(1990年)、『インフィニティ・ガントレット』(1991年)、『オペレーション:ギャラクティック・ストーム』(1992年)、『インフィニティ・ウォー』(1992年)、『ライズ・オブ・ザ・ミッドナイト・サンズ』(1992年)、『X-キューショナーズ・ソング』(1992年)、『マキシマム・カーネイジ』(1993年)、『インフィニティ・クルセイド』(1993年)、『フェイタル・アトラクション』(1993年)……等の、クロスオーバー企画をバンバン送り出していく。




 無論、マーベルのライバルのDCコミックス社も、似たような頻度でクロスオーバー企画をバンバン送り出していった。

 これらクロスオーバー・イベントは、当初は物語世界の活性化のために、作家陣と編集者が入念に企画を練って送り出していったが、まあ、やがて単なる「お祭り騒ぎ」を主眼とした、空虚な騒ぎばかりの内容となった。

 また、クロスオーバー企画を連発するために、「会社全体」規模の大型クロスオーバーではなく、『X-MEN』編集部や『スパイダーマン』編集部で扱っているタイトル間でのクロスオーバー、といったより小規模なクロスオーバーも増えていった。

 そんなわけで、この時期の市場には、大人向けっぽい「グリム&グリッティ」と、空騒ぎの「クロスオーバーもの」という、「刺激」に満ちた内容のコミックが席巻していた。で、そういう刺激の強いコミックばかりを与えられた読者は、「普通の話をしてるコミック」を「あんまり刺激がないもの」として軽視するようになる。


 他方、無数のヒット作が登場したことや、1970年代末から新興のインディーズ・コミック出版社が活況を呈していたことで、コミックショップのバックナンバー市場も活気づいた。……のだが、結果、「人気が出そうなコミックを青田買いする」バイヤーが増加し、1990年代に入ると「コミックブックを投機目的で買う」層による空虚なブーム(後世、「スペキュレイター・ブーム」と呼ばれるようになる)に繋がってしまった。

 また、高級紙を用いたプリスティージ・フォーマット(このフォーマットで出された『バットマン:ダークナイト』がヒットしたことで広まった)や、1980年代前半から刊行されていたグラフィック・ノベルなどのコミックブックを構成する素材の発達は、いつしか「特殊インクによる印刷」だの「箔押し」だの「プリズム・フォイル」だの「ホログラム印刷」だの「折り込み表紙」だの「カバー違い(ヴァリアント・カバー)」だのといった「特にコミックの中身には関係ない奴」の登場に繋がり、やがてスペキュレイター・ブームと繋がって、「創刊号や記念号などを、派手派手しい素材を使用した表紙で飾り、それを投機目的のバイヤーや読者が大量注文する」という、「ギミック・カバー」ブームにも繋がった。


 それとはまた別の流れで、1980年代後半から、ジム・リー、ロブ・ライフェルド、トッド・マクファーレンら、新世代のスーパースター・アーティストが台頭し、コミックのアートに新しい潮流を生み出したのだが、これはこれで「そんなに内容がないコミックでも、カッコいいアートが描かれていれば、まあいいや」的な読者の認識が広がったり、スペキュレイター・ブームでスーパーアーティストの描いたバックナンバーが無闇に高騰したり、人気アーティストの上っ面だけ真似たアーティストの増加などの弊害にも繋がった。

 ……なお、この当時マーベルは、新興出版社に対抗するため、「とにかく刊行点数を増やして、コミックショップの棚面積を奪う」というアレな方針を取っていたため、それら有象無象の「上っ面だけアーティスト」にも仕事が与えられることになった。

 で、刊行点数を増やすために、ヴェノムだのセイバートゥースだのデッドプールだのといった「人気悪役キャラクター」も、ホイホイ新シリーズ(大概は号数が限られたリミテッド・シリーズ)を与えられることとなり、それらのシリーズの創刊号の表紙は、当然の様に「ギミック・カバー」が用いられた。


 また、ライフェルド、リー、マクファーレンらは、その後、所属するマーベル・コミックス社と対立し、折からのインディーズ・コミックス出版社ブームに乗って、自分たちの会社であるイメージ・コミックスを立ち上げた。そしてイメージ・コミックス社から刊行されるスーパーアーティストの新作コミックは、スペキュレイター・ブームの追い風を受け、これまた高騰した。

 あと、イメージ・コミックスが出来る前に、元マーベル総編集長ジム・シューターが立ち上げた、ヴァリアント・コミックス(元々は大金持ちと手を組んでマーベル・コミック社そのものを買収しようとしてたが頓挫し、その予算で新興出版社を立ち上げた)も台頭していて、ここもギミックカバーを連発したり、大型クロスオーバーをバンバン展開して読者を煽っていた。マーベルに危機感を抱かせていた。

(ちなみにその後、イメージ・コミックスとヴァリアント・コミックスは、会社を超えた夢のクロスオーバー企画『デスメイト』を企画し、マーベルにトドメを刺さんとするが、イメージ側のアーティストがもの凄い勢いでシメキリを破りまくり、発行日を数ヶ月過ぎても本が出ず、小売りへの返金騒動とかも起き、皮肉にもスペキュレイター・ブームを失速させる一因となった)




 あと、スペキュレイター・ブームのあおりを受け、1991年にコミック情報誌「ウィザード」が創刊された。それ以前にも、老舗「コミックス・ジャーナル」や「アメイジング・ヒーローズ」他のコミック情報誌は存在していたが、「ウィザード」はミもフタもないことを言えば「投機目的にコミックを買う読者向け」の内容に特化しており、巻頭に人気作家のインタビューや、各出版社の最新コミックのプレビューを掲載しつつ、巻末には人気コミックの売り上げランキング、バックナンバーの人気ランキング、そして最新コミックスのプライス・ガイドを掲載し、スペキュレイター・ブームに乗ったファンを煽りに煽った。「ウィザード」の成功を受けて、プライスガイドの老舗オーバーストリート・パブリケーションも、同コンセプトの月刊誌「オーバーストリート・ファン」を立ち上げ、やはりファンを煽った。スペキュレイター・ブームの末期は、これらの出版社の記事が読者を煽ることで「次のブーム」を生むという、マッチポンプ気味な流れもできていた。




 でー、それらの諸々の事情が絡み合う混沌とした状況下において、当時のマーベル・コミックがどんな具合になったかと言うと、新興のイメージやヴァリアントの派手な新規タイトルに対抗するため、無闇に新オンゴーイング・シリーズや新リミテッド・シリーズを立ち上げ、それらのスタッフとして「そもそも大手出版社でコミックを描く水準に達していない作家たち」を多数起用し、で、それらの新規タイトルは、景気づけに他のタイトルからゲストキャラクターがバンバン登場するわ、物語の地固めも終わってないのに無為なクロスオーバーを繰り広げるわの、空虚な話を指向し、結果、毎号の物語の内容は薄くなり、で、その薄っぺらいシナリオをジム・リーやマクファーレンもどきの二流アーティストがデカいコマで描き飛ばし、合間合間の○周年記念や、キリの良い記念号などの節目の号では、主要登場人物が戦死したり爆死したり病死したり四肢を喪ったりするようなグリム&グリッティな展開が押し出しつつ、それらの号の表紙を鮮血色だの金だの銀だの虹色だののカバーが飾り、それを発売前から「ウィザード」「オーバーストリート」等のコミック情報誌が煽り、問屋も煽り、小売店も煽り、末端の読者はまんまとそれらのコミックを買い漁り、情報誌の巻末の「コミック・プライスガイド」を見て、自分の持っている号が値上がりするのを見てニヤリとする……といった感じだった(※大分、私見が入っています)。


 そんな混沌とした市場に、不意に現われたカート・ビュシーク&アレックス・ロスの『マーベルズ』は、読者に強い衝撃を与えた。

 なんというか、『マーベルズ』は、大人向けだとかグリム&グリッティだとかギミックカバーだとかクロスオーバーだとか、そういう市場の現状を割とこう「まあ、それはそれ」と受け止めた上で、「でも、こういうのも良くない?」と、建設的な提案をしてきた作品だった(と、個人的には思う)。

 例えば、『ウォッチメン』が切り開き、当時の流行の思考実験のテーマとなっていた「現実的な世界に、ヒーローがいたら」的な世界観に対し、『マーベルズ』は、「それはそれでいいけど、ちょっと夢がなくない?」的に、全く逆の、それでいて同様に興味深い思考実験のテーマとして、「スーパーヒーローが存在する世界に、私たちがいたら」という視点を提示した。

 で、『マーベルズ』』の物語のクライマックスは、とあるキャラクターの死が描かれることになるわけだが、身近な存在であった「彼女」の死と、スーパーヒーローが市民を救えなかったという事実に心を揺らされる主人公フィル・シェルダンの心情に寄り添い掘り下げていく本作の作劇は、安易にキャラクターを殺してドラマを盛り上げようという、通り一遍の「グリム&グリッティ」とは視座が違っていた。

 また、当時、マクファーレンやライフェルドの様な「デッサンよりも勢い重視」なアーティスト、ジム・リーやマーク・シルベストリの様な「リアルさよりもカッコよさをひたすらに先鋭化させた」アーティストが隆盛を誇っていた市場に、アレックス・ロスのスーパーリアリティなぺ員とアート──ヒーローの肉体はおろか、コスチュームの縫い目や、怪人の被るゴムマスクの質感すらもひたすら律儀にリアルさを追求して描いた、「堂々とリアルに描いたことで、一周回って全部カッコよく見える」そのアートは、「こういうカッコよさもアリなのだ」という新たな美的感覚を読者にもたらした。

 なお、『マーベルズ』のオリジナルのコミックブック(全4号)は、「アセテート・カバー」というギミック・カバーを取り入れていた。これは要するに、透明なプラスチック板に、一色(黒)で『マーベルズ』のロゴを印刷したものが、アレックス・ロスのペイント・アートの上に被さっている感じのカバーだが、これは要するに、アレックス・ロスのカバーイラストをロゴなどを乗せない状態で見せたい、という「必然性」から導き出されたギミックであり、ただ仰々しい表紙で読者の耳目を集めるための安易さとは違っていた。

 そしてシナリオ、アートの双方から満ち溢れる、正しいことのために戦うスーパーヒーローへの賛歌、マーベル・コミックスという会社が半世紀以上に渡り培ってきたヒーローものコミックの歴史への感謝、抑えきれないコミックと言うメディアへの愛情は、やれスーパーマンが死んだだの、バットマンが引退しただの、スパイダーマンの両親が生きていただのと言った既存のキャラクターの生き死にを転がしてギミック・カバーを売る、荒涼とした当時のコミック史上に疲弊していた読者の乾いた心に染み入ったのだ(私見です)。


 そしてその後1995年に、カート・ビュシークは、スーパーヒーロー・コミックというジャンル自体への賛歌と、『マーベルズ』で描いた「スーパーヒーローのいる世界の日常」をさらに押しし埋めた作品『アストロシティ』を、あのイメージ・コミックス社から刊行する(同作のキャラクターデザインと、カバーアートはアレックス・ロスが担当)。




 さらに同年、ビュシークはマーベルでオンゴーイング・シリーズ『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン』を担当。これは、最初期の『アメイジング・スパイダーマン』誌の「各話の合間に起きたエピソード」を描いていく、と言うコンセプトのシリーズで、ビュシークが『マーベルズ』で見せた、「過去のマーベルのコミックのコンティニュイティ(継続性)」へのマニアックなこだわりの方にスポットを当てつつ、スパイダーマンと言うキャラクターの原点に立ち返ったストーリーで、読者にストレートなヒーローもののコミックの面白さを再認識させた。




 他方、DCコミックス社の『フラッシュ』で、クラシカルなヒーローによる情緒あふれる物語を書き、一定の評価を受けていたマーク・ウェイドが、1995年中頃から、マーベルのクラシカルなヒーローの筆頭『キャプテン・アメリカ』のライターに就任する。

 当時の『キャプテン・アメリカ』誌は、「力の源である超人血清の効力が切れかけ、生命の危機を迎えたキャプテン・アメリカが、アイアンマンばりのパワードスーツに身を包み、ジャック・フラッグ、フリー・スピリットといった現代的でクールな星条旗モチーフのヒーローらとチームを組んで活動を続ける」という、絵に描いたような迷走をしていたが、ウェイドはその辺をバッサリと切り捨てた。

 キャプテン・アメリカは「色々あって」超人血清が回復し、元のコスチュームに復帰、そして作中で長年「死亡」していたサブキャラクター、シャロン・カーター(キャプテンの恋人であり相棒)も復活、さらにはキャプテンの最大の仇敵レッドスカルも復活させ、彼らとコズミックキューブ(『キャプテン・アメリカ』の伝統的なガジェット)を中心に据えた、キャプテン・アメリカの物語の原点に立ち返った物語を展開した。




「リアルとか現実的とか細かいことにこだわる前に、面白いコミックを書こうよ、なあ!」と言った具合なウェイドのキャプテン・アメリカは、当初、割と知る人ぞ知る傑作といった扱いだったが、「ウィザード」他のコミック情報誌が、「今面白いのは、『キャプテン・アメリカ』の王道の物語だぜ!」「それと、『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン』も良いぜ!」と、手のひら返しで紹介し、「王道の物語バンザイ」的な特集記事で読者を煽ったことで、コミック界の様相は一変した。

 今まで何ドルもするギミック・カバーを集めていたスペキュレイターな読者は、たった99セントの『アントールド・テールズ・オブ・スパイダーマン』を、1ドル50セントの『キャプテン・アメリカ』を、求めだすようになったのだ。

 そしてまた、マーク・ウェイドはアレックス・ロスと組み、1996年にDCコミック社から全4話のリミテッド・シリーズ『キングダム・カム』を送り出す。「空虚な空騒ぎを続ける新世代ヒーローらと、殺伐とした暗闘を続けるヴィランらに、スーパーマンらクラシカルなヒーローが王道の道筋を示す」という、よく考えれば直球過ぎる『キングダム・カム』は、折からの王道回帰の流れもあり、ヒット作となった。




 でー、こうした王道回帰の流れの中でマーベル・コミック社は1997年に、ジム・リー、ロブ・ライフェルドらイメージのスーパーアーティストの一部をマーベルに呼び戻し、彼らにキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォーらクラシカルなキャラクターをリメイクさせるという『ヒーローズ・リボーン』の企画をぶち上げた。

 このマーベルの路線に、それなりの数の読者が「王道回帰的な路線が流行しているのに、なんでスーパーアーティストを呼び戻すの? ていうか、『ヒーローズ・リボーン』のために、ウェイドの『キャプテン・アメリカ』を打ち切るの? 辞めろよ!」と思ったが(恐ろしいほどの私見です)、それはそれとして、『ヒーローズ・リボーン』の企画は始動した。まあ、マーベルにしても、市場の大きな変化は分かってと思うが、多分、変化の前から仕込んでいたであろう、この大型企画を取りやめる訳にもいかなかったのだろう。

 が、いざ始動した『ヒーローズ・リボーン』は、スーパーアーティストらいつもの調子で締め切りに間に合わなかったり、諸事情でロブ・ライフェルドが降板して、ジム・リーのスタジオが尻拭いをする羽目になったり、あんまり新しい視点を盛り込めずに、最後はギャラクタスと言う、クラシカルなヴィランをラスボスに据えてなんとなく締める感じで、まあ、割と微妙な結果に終わり、『ヒーローズ・リボーン』関連誌のバックナンバーは、特売ボックスに放り込まれた(私見)。




 一方、翌1998年、マーベルは「ヒーローズ・リターン」と銘打った新路線を臆面もなく展開。新創刊される『アベンジャーズ』と『アイアンマン』のライターにカート・ビュシークを、『キャプテン・アメリカ』のライターにマーク・ウェイドを据え、さらには『ファンタスティック・フォー』や『ソー』にも、実力派のライターを据え、「実力派ライターと、ハッタリでない確かな実力のアーティストによる王道回帰路線」へ、大きく舵を切ることになる。




 ……まあ、その一方で、マーベルはインディーズ・コミック・ブームの生き残りであるイベント・コミックス社のジョー・カザーダを起用し、1998年から王道回帰を受けての新たな改革路線である「マーベル・ナイツ」レーベルを始めたりと、けして「王道回帰」にこだわらない施策をしているのだが、まあ、長くなるので今回はこの辺で。

(あと、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の影響で、カート・ビュシークらメインストリームの作家が「単純明快なヒーローものを書くこと」に疑問を持ってしまった、という事態も起きる)

 と、まあ、大雑把に語ったが、『マーベルズ』は1990年代後半の「王道回帰」の流れで中心的役割を果たすカート・ビュシークとアレックス・ロスの出世作、という点で、歴史的な意義を持つ作品なのである。以上(まとめるの下手過ぎる)。


  
  
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